第1回】ヤンキー的バッドセンスの系譜

精神科医・評論家の斎藤環さんの新刊『ヤンキー化する日本』が3月6日より発売開始! 気合いとノリ、母性に絆、バッドセンスなど、日本中にはびこるヤンキー性に迫り、大きな反響を呼んだ論考『世界が土曜の夜の夢なら』(通称:セカド)の著者が、各界の著名人との徹底対論し、日本を急激に覆うヤンキー性を分析します! 本連載では書籍に収録した小説家・海猫沢めろんさんとの対談を全文公開! 第1回では、ヤンキー的美学とヤンキー論の執筆動機を語ります。

対談終了後、斎藤環さん、海猫沢めろんさん。そして飛び入りゲストの『特攻の拓』著者・所十三先生と、速水健朗さん。
みんなでヤンキーごっこの図 於:荻窪ベルベットサン(写真:白坂微恵)

フェイクから本物への変換回路

斎藤環(以下、斎藤) 海猫沢さんにはヤンキー経験がありますが、もともとはおたくだったんですよね。

海猫沢めろん(以下、海猫沢) そうですね。高校が特殊で友達がほとんどヤンキーだったので……。ただ、僕は今も昔もメンタリティは完全におたくなんで、妙な混ざり方をしていたと思います。小説家デビュー*1したあとのインタビューなんかで、それまで何をやってきたのかと聞かれると、面倒くさいからものすごく省略して、「おたくだったけどホストをやって、ヤクザになって、エロゲー(PCゲーム)を作ってました」と答えてました。育ったのは兵庫県の姫路市なんですけど、ここは日本で一番携帯小説が売れている町なんです。東京に出てきてボクシングジムに通ってるとき、瓜田(純士)*2くんと出会って、彼の自伝(『ドブネズミのバラード』)の企画編集をしたことがあって、それ以来アウトロー文化には興味を持っています。だから斎藤さんの本(『世界が土曜の夜の夢なら』)も読んでましたよ。僕としては最初にYOSHIKIの話から入っているところに違和感はありましたけど。*1 小説デビュー 海猫沢めろんは、自らが制作したPCゲーム『ぷに☆ふご~』を元にした小説『左巻キ式ラストリゾート』(二〇〇四年、イーグルパブリシング)で作家デビューした。また、自伝的青春小説である『全滅脳フューチャー!!!』は二〇〇九年に太田出版から刊行され、二〇一三年に幻冬舎文庫になっている。
*2 瓜田純士 一九七九年生まれ。俳優、格闘家、作家など、さまざまな顔を持つ人物。長く暴力団に所属していた時期もあり、「アウトローのカリスマ」ともいわれる。『ドブネズミのバラード』(二〇〇八年、太田出版)は作家デビュー作。

斎藤 それはどういうことですか?

海猫沢 ビジュアル系とヤンキー系は微妙に違うと思っているんです。僕はビジュアル系が大好きだったんですよ。90年代前半の盛り上がった頃によく聴いていましたが、周りのヤンキーたちもそうだったかというと、全然聴いてなくて、そこには明らかに断絶があった。

斎藤 ビジュアル系のファン層がヤンキーなのかといえば、違いますよね。ただ、X JAPANは別だといえるし、YOSHIKIにはもともとヤンキーだったという出自もあります。それに、ここで考察したかったのはセンスの問題なので。

海猫沢 バッドセンスの系譜ということですか。

斎藤 そうです。単にバッドセンスというと誤解されやすいかもしれませんが、「ヤンキー的なもの」として括れるかどうかということですね。YOSHIKIの場合は、特殊な面もあります。クラシックの素養があって、ピアノが弾けてドラムの技術もすごいという反面、本人のアイドルはKISS*3のピーター・クリスだったりするわけです。
 KISSというのはフェイク中のフェイクみたいなバンドで、音楽性の部分では必ずしも評価されるわけではありません。あの時代であれば、クイーンのロジャー・テイラーだとかレッド・ツェッペリンのジョン・ボーナムだとか他のドラマーに憧れてもよさそうなものなのに、どうしてピーター・クリスだったんだろうと疑問を持ってしまう。
 フェイクを取り込んで本物にしてしまう変換回路があるのかな、とも考えられますよね。フェイクと本物の境界も難しい。たとえばひと昔前にヤンキーの人気を集めた横浜銀蠅*4はフェイクな存在の代表格だったといえます。メンバーは全員が大卒か大学中退で、非行歴もない。
 亡くなったナンシー関さんは、フェイクなヤンキー文化を「銀蠅的なもの」と呼んで、日本の人口の三分の一が銀蠅的なものに惹かれがちだという話を展開していたくらいです。もともと不良のアイドルはキャロルやクールスだったのに、いつのまにかその位置にはフェイクやパロディがくるようになっていたわけですね。*3 KISS 一九七三年から活動するロックバンド。白塗りをベースにしたメイクが最大の特徴といえる。ピーター・クリスはオリジナルメンバーの一人で、ドラムとバッキングボーカルなどを担当。*4 横浜銀蠅 一九七九年に結成されたバンド。八一年に出した「ツッパリHigh School Rock'n Roll(登校編)」などが大ヒット。リーダーの嵐は関東学院大学中退。

海猫沢 なるほど、そういう面はたしかにありますね。90年代のヤンキー漫画で『特攻の拓』*5という作品があります。この作品内では〈外道〉という暴走族のリーダーが重要な役割を果たしているんです。この〈外道〉は、実在するロックバンド「外道」*6をモデルにしてるんですけど、インタビューなどを読むと、「外道」はどうもつくられたもので、ヤンキー性のない普通のミュージシャンをパッケージして売り出したようなんですよ。でも、『特攻の拓』の原作者である佐木飛朗斗さんは、その存在をベタに受け取っているというか、フェイクかベタかということを全然、問題にしないんです。*5 特攻の拓 正式タイトルは『疾風伝説 特攻の拓』。一九九一年から九七年まで『週刊少年マガジン』で連載されていた。原作=佐木飛朗斗、作画=所十三。*6 外道 一九七三年に結成されたロックバンド。奇抜な衣装、派手なステージで不良層からの人気を集めた。中心的存在だったボーカルの名前は加納秀人。

斎藤 そこでもやはりフェイクが本物というかベタに変わっているわけですね。少し前に氣志團が出てきたときに、やはり銀蠅的なフェイクだと思ったんですが、それは間違いで、氣志團のメンバーは全員にヤンキー経験があったという。

海猫沢 氣志團のリーダーの綾小路翔はちょっと特殊ですよ。めちゃめちゃサブカルチャーに詳しくて、楽曲とか歌詞のほとんどにネタが仕込んである。ネタとベタを完全に理解した上であのスタイルを選んでいる。さっき言った『特攻の拓』からもいくつか引用があるし。氣志團のやっていることは非常に批評的です。

斎藤 そうですね。ロッキング・オンはヤンキー系のものは絶対に取り上げない出版社ですけど、唯一の例外のように綾小路翔の自伝(『瞬きもせずに』)は出していますから。

ヤンキーは「ヤンキー」を語らない

海猫沢 そもそも斎藤さんは、どうしてヤンキーを扱ったんですか?

斎藤 ずっと関心があったということが大きいんですけど。以前に『小説トリッパー』という雑誌でケータイ小説を扱ったとき、ケータイ小説やネット上でうけるような小説は三つに分類できると気がついたんです。Yoshiの『Deep Love』、市川拓司の『いま、会いにゆきます』、そして『電車男』(著・中野独人)。その三冊を挙げるとわかりやすいですが、そういう小説を好む読者はヤンキー層、サブカル層、おたく層に分けられるということです。そこから話を展開させようとしたとき、これまでにおたく論はずいぶん蓄積されてきているのにヤンキー論はないということに気がついて。どうしてヤンキーは語られないのか、自分で語らないのか、と考えたんです。なぜなんですかね?

海猫沢 それは、語ったらヤンキーじゃないから、という単純な話ですね。そういう小難しいことが嫌いだからヤンキーになるわけで。

斎藤 そうなんですよね。でもギャル論とかをやっている人はいるわけですよね。足抜けしてから語るのはいいんじゃないかとも思いますが、その辺はどうなんですか?

海猫沢 そこが難しいところなんだと思います。足抜けしてから語ると、現役感がないということで、叩かれる原因になる。お前はヤンキーじゃない! みたいな。おたく論にしても、おたくたちに許容されるかされないかは難しいところがありますからね。

斎藤 そうですね。私自身、おたく当事者ではなく、おたく遺伝子がないのに『戦闘美少女の精神分析』*7という本を書いたことがあって。部外者であっても、そこそこいけるという感触があったのでヤンキー論も展開してみようかという気になったんです。それが何かの呼び水になるというか、叩き台のように機能していけばありがたいなと考えていました。だから私がやろうとしたのは、カルチュラルスタディーズ的なものなんですね。不良文化そのものの話になるとかえって雑然としてしまうので、不良文化を排除してバッドセンスの系譜を見直していきたかったんです。実際、今の日本では不良は減っているのに、一般人の中でのヤンキー的バッドセンスの共有度は高まっていますから。キラキラネームの流行みたいに。*7 戦闘美少女の精神分析 二〇〇〇年に太田出版から刊行され、二〇〇六年にちくま文庫となった斎藤環の著書。アニメに登場する美少女などを取り上げながら、おたくの心理的特性を分析している。


※第2回は3月2日(日)に掲載いたします。

今の日本を覆う空気の正体に迫る1冊、
3月6日より発売です!




ヤンキー化する日本

斎藤環・著
[編集]角川書店[発行]KADOKAWA
発売日:2014/3/06
定価:840円(税5%込)

角川新書

この連載について

ヤンキー化する日本 斎藤環×海猫沢めろん

斎藤環 /海猫沢めろん

合いとノリ、母性に絆、バッドセンス。日本人は急激にヤンキー化している! 現代日本に巣くうヤンキー性を村上隆、溝口敦、與那覇潤、デーブ・スペクター、海猫沢めろん、隈研吾と徹底対論!

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コメント

uminekozawa ◆いつから日本はヤンキー大国になったのか? 10日前 replyretweetfavorite

uminekozawa ◆いつから日本はヤンキー大国になったのか? 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

pinkheartsss https://t.co/Xz3M3glRQT 約1年前 replyretweetfavorite

TT32768 写真がかっこいい 1年以上前 replyretweetfavorite