茂木健一郎 /北川拓也
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第8回】WikipediaからTEDへ、情報のかたちが変化していく。
「みんな同じ」であることによって「伝わる喜び」を実感しづらい日本人。それでも北川は、新しい「伝え方」を発明していけば、日本人でも伝える喜びが実感でき、ひいてはコンテクストデザインの力もつくはずだと語る。その思想の根底には、彼が感じる「情報のあり方」の変化があった。科学者である2人は、その変化を、研究論文の評価に応用させて話し合う。
TEDは、伝え方そのものがイノベーションだった
茂木 東大生は、東大生である時期が人生の一番のピークで、そのあとは官庁にいくにしても、企業に就職するにしても、グライダーの滑空飛行みたいな感じで、少しずつ高度が下がっていくことがほとんどなんだよ。
北川 そうなんですか! ただ、東大生ってほとんどみんな、卒業後はどこかに就職しますよね。彼らの能力からすると、その環境がもったいないと思うことはあります。ハーバードの学生は、自分のやりたいことを実現するために、優秀な人であればあるほど起業する傾向がありますから。
茂木 最近は、「これではいけない」と、日本の大学生がざわざわし始めているのも感じるよ。
でも、基本的に日本人の人生のストーリーというのは、「どこに所属するか」を決めているだけでさ、けっこう単純なんだよね。小さい頃から安定した人生を志向するように育てられているから、人生のコンテクストをいちからデザインする力はなかなか身につきにくくなるよね。
そもそも情熱とか、もっというと野望みたいなものは、人に教えるのがひどく難しいものだから。
北川 でも、情熱や野望を何に向けるかという「動機づけ」を教えるのは、不可能ではないと思っています。「伝え方」が、うまく理解されてこなかっただけなんじゃないでしょうか。
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この連載について
茂木健一郎 /北川拓也
日本経済が停滞して久しい。一方で、アメリカではIT産業の新しい成功モデルがどんどん生まれている。この違いはどこにあるのか。
ここで登場するのが2人の天才。高校卒業後、8年間ハーバード大学で活動している理論物理学者・北川拓也。一方、1...もっと読む
著者プロフィール
1962年生まれ。脳科学者。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー、東京工業大学大学院連携教授。東京大学理学部物理学科、同大学法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学研究員を経て現職。専門は脳科学、認知科学。「クオリア」(感覚のもつ質感)をキーワードとした、心脳問題についての研究を行なっている。全国各地での講演活動や、テレビ出演、雑誌への寄稿など精力的に活動し、Twitterのフォロワーが50万人を超える(2013年8月現在)など、その発言は若者から中高年まで多くの日本人に注目されている。
Twitter:@kenichiromogi
1985年生まれ。灘中学校、灘高等学校を卒業。高校時代に化学オリンピックで国内最優秀賞を受賞。高校卒業後、現役でハーバード大学に合格。数学、物理学科を専攻し、ダブルメジャーで最優等の成績をとり卒業。その後ハーバードの大学院に進み、2013 年、博士過程を修了。今までに15本以上の論文が国際雑誌(Science, Nature communicationsなど)に取り上げられ、その内の3つの論文が編集長に特別に重要な論文として指定された。世界中の物理学者と共同研究をし、これまで20以上の研究所や国際学会で招待講演をしている。現在は、楽天でデータサイエンスのチームを率いている。
Twitter:@takuyakitagawa