先週は、日米のインターネット業界を揺るがす大きな出来事がありました。楽天によるキプロスのベンチャー「Viber」の買収、そしてfacebookによる「WhatsApp」の買収です。
どちらも「メッセージング」と呼ばれるスマートフォンアプリを出している会社です。楽天が900億円でViberを買収したのも度肝を抜かれましたが、そのすぐ後に今度はfacebookがWhatsAppを190億ドル(約1.9兆円)で買収すると発表したのは、世界中で大いに話題になりました。ネット企業のM&Aとしては史上最高額です。
そして今日、またとんでもないニュースが飛びこんで来ました。ソフトバンクが、LINEの買収を申し出ているというのです。
しかし、ViberにしろWhatsAppにしろ、ユーザー数は億単位でいるものの、売上高や利益もほとんど上げられていません。そんな会社に何百億や何兆円もの値段をつけて、いったい楽天やfacebookは何を考えているのでしょうか。また、数兆円払って米国の携帯電話会社スプリントを買収したばかりのソフトバンクが、今度はLINEを買収したいという。メッセージングアプリの、何がそんなに魅力的なのでしょうか。今日はちょっとこの話を考えてみます。
たしかに「キラーアプリ」だが……
なぜメッセージングアプリなのか? そのひとつの答えは、「スマートフォンにおけるキラーアプリケーションだから」というものです。
モバイル端末におけるメッセージのやりとりというサービス自体は、スマートフォンに始まったことではありません。日本ではかなり早い時期から携帯キャリア各社がメールサービスを提供していましたし、海外ではSMS(ショートメッセージサービス)と呼ばれる、相手の携帯電話の電話番号さえ分かっていれば140字以内のメッセージが送れるサービスがありました。
メッセージングアプリは、スマホ以前の時代にあったこれらのサービスを、PCと同じプロトコルで通信できるスマホという端末にあわせて「再発明」したものと言えます。
SMSやiモードメールが携帯ユーザーにとって必要不可欠なサービスであったのと同様に、メッセージングアプリは一般的にスマホユーザーへのスティッキネス(粘着性)が非常に高いです。
アプリやサービスがどのくらい頻繁に使われるかの指標として、MAU(Monthly Active Users:月間アクティブユーザー数/比率)という数字があります。月に一度でもそのサービスを使ったユーザーが、登録アカウント全体のうち何%にのぼったかを見る指標ですが、WhatsAppのMAUは多くの国で90%以上、全体平均でも70%に達しています。日本のLINEも昨年11月の記者発表では、「日本・台湾・タイなどの主要国ではMAU80%以上」という数字が明かされていました。
これは、facebookなどのSNSのMAU(58%)をはるかに超える驚異的な数字です。その意味で、WhatsAppやLINEといったメッセージングアプリは、もはやスマートフォンにおける「キラーアプリ」(この機能があるからこの端末を買う、という購買動機にまでつながる重要機能)であると言っても過言ではないでしょう。
メッセージングアプリは「ネットワーク外部性」を生む
しかし、「キラーアプリ」であるからと言って、メッセージングアプリから1.9兆円という買収価格に見合った利益が期待できるかと言えば、そう簡単な話ではありません。