前編】クリエイター本人がマーケティングする時代

10月3日に、代官山蔦屋書店とcakes(ケイクス)の初コラボ企画として行われた、「津田大介×速水健朗×加藤貞顕トークライブ」の様子を前後編に分けてお届けします。実は同じ1973年生まれで、旧知の間柄の3人。大変盛り上がるイベントになりました。テーマは「電子書籍と今後の雑誌」です。ぜひご一読ください。

三人の共通点は……

加藤貞顕(以下、加藤) 今日は、雨の中お越しいただき、どうもありがとうございます。
 cakes(ケイクス)を運営している、加藤貞顕と申します。もともと雑誌や書籍の編集者をしていたのですが、電子書籍を担当したりするうちに、ウェブ上で有料コンテンツの配信を成功させることに興味が出てきました。そこで作ったのが、デジタルコンテンツ配信プラットフォームのケイクスです。
 いまはケイクス上で自社メディアを運営していて、津田さんと速水さんにも連載をしていただいています。そこで、今回代官山蔦屋書店さんで3人でイベントをすることになったというわけです。
 じつは、僕たちは3人とも1973年生まれなんですよね。しかも、僕と速水さんは高校の同級生。

速水健朗(以下、速水) そうそう。加藤さんはスキー部で僕は映画研究会だけど。

津田大介(以下、津田) リア充と非リア?

速水 そうですよ。僕はもう底辺の方ですよ。

加藤 いやいやいや。速水さんは、カルチャー系だったということですよね。

津田 よく言えば、ですよね。
 ふたりとも新潟出身じゃないですか。日本海側で育ったっていうのは、いまの仕事と関係あるんですかね。

速水 うーん、どうだろう。

加藤 カルチャーがほとんどなくて、カルチャーに接続できる唯一の場所が書店だったのはたしかだと思います。

津田 じゃあ、ふたりはいつ頃から出版業界志望だったんでしょう。僕はずっとマスコミ志望で、高校時代には新聞部に入っていました。『別冊宝島』が大好きで。

加藤 なるほど。

津田 パソコン系のライターのバイトからなんとかここまできたという感じです。加藤さんと速水さんはアスキー(現アスキー・メディアワークス)出身でパソコン雑誌を作っていたので、その意味でも3人に共通点がありますね。僕、昔、週刊アスキーでも書いてましたよ。

加藤 たしかにそうですね。速水さんはライターになりたかったんですか?

速水 僕は物書きになりたかったというのはちょっと違うかな。「宝島」文化圏ではなくて、「マガジンハウス」文化圏でした。ポパイボーイだったんです。

加藤 おおっ。

津田 それだけ聞くと、ちょっとモテ側な気がするけど……。

速水 またそういうことを……。

津田 だから速水さんの書く文章って、サブカルを小馬鹿にした感じが隠しきれずにじみでてるんですね(笑)。

速水 ひどいな(笑)。マガジンハウスがモテっていうのは僕らより上の世代の話。僕らの世代だと、アスキーとマガジンハウスは、西海岸カルチャーとして繋がっているんですよ。77年の『POPEYE』創刊号は「カリフォルニア特集」だったけれど、90年代始めころまで「Mac特集」をよくやっていたんです。シリコンバレーはもちろんカリフォルニアだし、陸に上がった西海岸のサーファーはMacを使っていたという。

加藤 じゃあ海側で育ったのは無関係じゃないのかもね。新潟は日本のウェスト・コーストですからね(笑)。

ケイクスの購読者数は?

津田 ケイクスの紹介もしてくださいよ。

加藤 ありがとうございます。ケイクスは電子コンテンツの配信サイトです。週150円課金の定額課金サイトで、いろいろなメディアのコンテンツを配信しています。

速水 この会場でケイクスを知っている人。

(かなりの手が挙がる)

加藤 おおー!

速水 じゃあ、ケイクス入っている人!

(やはり手が挙がる)

加藤 すごい。ありがとうございます! ……じゃあ、そんなに説明しなくてもいいですね。

津田 もはやこのイベントをやらなくてもいいんじゃないか説が(笑)。

加藤 いやいや(笑)。

津田 いま始まって何日くらいでしたっけ?

加藤 20日くらいですね(イベント当時)。

速水 3週間か。最初から有料配信モデルなのはすごいですよね。しかも、最終的にはユーザー主体のプラットフォームにしたいと聞きました。

加藤 そうなんです。

速水 となると、有料会員数が重要ですよね。ぶっちゃけ、いまどれくらいの数なんですか? 想定していた数と、どれくらい違うのか、成功しているのか失敗しているのか。

加藤 思っていたより多くの方に入っていただいていますよ。

津田 何人? 何人?(前のめりになって)

加藤 (笑)。想定よりかなりいい、ということで勘弁してください。津田さんにうかがった予想の2倍くらいです。

津田 マジですか! それはすごい。

速水 津田さんの予想っていうのは、どうやって出した数なの?

津田 僕がやってる有料メールマガジンの最初の1ヶ月に集まった人数ですよ。すごいなあ……。

速水 購読者の伸びは止まっていないんですか?

加藤 止まってないですね。

速水 おお。

加藤 もちろん、オープンの勢いで安心せずにユーザーを広げる努力をしないといけないですけど。

津田 まだアーリーアダプターに届いたところですもんね。

ケイクスが取り入れた新しい仕組み

速水 ここからは、ケイクスのことをキャズム理論に照らして話しましょう。何かのサービスを始めたり、商品を発売したとき、まずは新しいものに対して敏感なイノベーター、そして能動的に新しいものを探しているアーリーアダプターに普及する。でも、この二者だけでは数が少ないので、そこからアーリーマジョリティーへと普及させないといけない。ここに大きな壁、つまりキャズムがあり、容易に普及させることができないというのがキャズム理論。

加藤 はい。

速水 ケイクスは、アーリーアダプターを引き入れるのは意識的にやっていますし、実現できていますよね。ケイクスの戦略的な点は、書き手を集める時にソーシャルメディアとかで活躍している人を執筆陣にいれて、Twitterの話題をサイトへの導線にしているところ。May_Romaさんや岡田育さんのように、一般媒体では書いていないけど、ネット上ですごく話題になっている人にも書いてもらっていて、しかも面白いコラムを書かせることに成功している。

加藤 May_Romaさんの人気はすごいですね。それと大事なのが、クリエイターが自分の記事を宣伝するための機能をつけているんですが、それをすごく活用してくださっているんですよ。

速水 そこから入会したお客さんの1週目の購読料が、クリエイターに入る仕組みですよね。

加藤 そうです。

津田 原稿料の支払い自体も、読まれたPV(ページビュー)に応じて分配する仕組みなんですよね。著者側が積極的にソーシャルメディアで告知するインセンティブを生んでいる。ただ「つぶやけ」って言うより、全然いい。

速水 僕は以前、ある有料サイトで執筆していたんですけど、全く反響がなくて、ちっともモチベーションが持てなかった。だからケイクスの仕組みはいいなと思っています。

加藤 ケイクスを始める前に、速水さんに相談に行って、いろいろとご意見をいただきましたよね。

津田 僕がケイクスを使ってすごいなと思ったのは、クリエイターが無料購読時間を設定できるところです。いまから10分とか30分とか時間を区切って、無料にできるURLをツイートできる。
 例えばこれが新聞社のサイトとかだと記事のURLに読者がアクセスしても「有料記事だから登録しないと読めません」とか書いてあって、読者が怒る訳ですよ。でも、ケイクスの仕組みならそういうことにならない。Twitterというフローなメディアを使っているから、ツイートの無料購読時間を過ぎてからアクセスして読めなかった人も、「ああ、そのときにツイートを見てなかったからだな」って納得してくれる。

加藤 ありがとうございます。著者が宣伝することが、読者にプレゼントになる仕組みとして考えました。

速水 最近電子書籍で売れた『当事者の時代』も、著者の佐々木俊尚さん本人がソーシャルメディアで積極的に宣伝していたよね。著者の宣伝って大事。

加藤 それは本当にそうです。紙の本をつくっているときから痛感してきたことなんですが、いまはマスマーケティングがほとんど効かなくなってきている。お客さんがすごくセグメント化されているから、それぞれに届く言葉を考えるには、結局クリエイター本人がやるしかなくなるんです。

津田 要するにケイクスは、面倒な営業と宣伝を著者にアウトソーシングしているということですかね。

加藤 いや、そこまでは(笑)。プラットフォームとしてのマーケティングもちゃんとやります。

津田 僕たちは加藤さんの手の上で踊らされているだけという……。

加藤 いやいや(笑)。ただ、このクリエイターというのは、編集のことも意味しているんです。ケイクスは、著者と編集者がチームを作って連載できるようになっています。だから著者だけじゃなくて、編集者も宣伝をする。編集者も含めたクリエイターが、がんばって宣伝をしたくなるような仕組みを作ったつもりです。将来的に出版はそうなっていくんじゃないでしょうか。もっと言うと、出版社もクリエイターだと思っています。だから、同じクリエイターとして、ケイクスをプラットフォームとして使ってほしいと思うんですよね。いまそのために各出版社をまわって説明しているところです。

※後編は11月12日(月)更新予定

 

津田大介(つだ・だいすけ)
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。ケイクスでは『Commitment2.0—そろそろコミットしてもいいんじゃないの?』を連載中。
Twitterアカウント:@tsuda

速水健朗(はやみず・けんろう)

石川県金沢市出身。 パソコン雑誌の編集を経て、2001年よりフリーランスとして、雑誌や書籍の企画、編集、執筆などを行う。主な分野は、メディア論、20世紀消費社会研究、都市論、ポピュラー音楽など。著書に『自分探しが止まらない』(ソフトバンク新書)、『ラーメンと愛国』(講談社現代新書)、『都市と消費とディズニーの夢』(角川oneテーマ21)などがある。ケイクスでは『弔いの流儀』を連載中。
ブログ:犬にかぶらせろ!
Twitterアカウント:@gotanda6

加藤 貞顕(かとう・さだあき)
ピースオブケイク代表取締役CEO・編集者。アスキー、ダイヤモンド社で雑誌、書籍、電子書籍の編集に携わる。おもな担当書は『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』『スタバではグランデを買え!』『なぜ投資のプロはサルに負けるのか?』(以上、ダイヤモンド社)、『英語耳』など。独立後、2011年12月に株式会社ピースオブケイクを設立。12年9月に当サイト「cakes(ケイクス)」をオープン。
会社サイト:http://www.pieceofcake.co.jp/
個人サイト:http://sadaakikato.com/
twitterアカウント:@sadaaki

 

ケイクス

この連載について

cakes×代官山蔦屋書店コラボ企画 津田大介×速水健朗×加藤貞顕トークライブ

cakes編集部

10月3日に、代官山蔦屋書店とcakes(ケイクス)の初コラボ企画として行われた、「津田大介×速水健朗×加藤貞顕トークライブ」の様子をお届けします。

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