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第11回 キョウセイ・ホームステイ【桃井流歌子】同じ時間・同じ場所/石柱公園
“テロリスト”である「緑の子」は、新たに「緑鳥巡(ミドリトリ・メグリ)」として活動している。そして、今目の前には“大切な友だち”である桃井流歌子が歩いてきて――。ふたりは出会う、のか?
★『こちら、幸福安心委員会です。女王様とハピネス・サマー・ゲーム』発売を記念して、前作にあたる『こちら幸福安心委員会です。女王様と永遠に幸せな死刑囚』の一部を公開します。
♪こちら、幸福安心委員会です。♪
【桃井流歌子】同じ時間・同じ場所/石柱公園
小雨が降り出したのは、意外だった。
国土保全省・天候管理局から知らされてなかったから、傘の用意なんてない。
なにか予定が変わったのかも。私は、しかたなく濡れながら歩いていた。あとでスーツをクリーニングに出さないと。思わず眉をひそめてしまうけれど、誰も見ていないような、人通りのない公園だったから、良かった、と思う。
些細なことだけれど、不満そうな、不幸そうな表情を見せると通報される危険がある。
幸福安心委員会は、つまらないことで罰則までは適用しないとは思うけれど、減点対象にはなるだろう。向こうのミスだ、天候管理局が悪いんじゃないの、なんて文句さえつけなければ、だいたい平気。
だからつまり、たまに予告なしの雨が降るのも、もしかしたら不幸分子をあぶり出すための政策なのかもしれない。なんて思うこと自体が、私が普通の、模範的な幸福市国民ではない証拠なのかも、とも思う。真実はわからない。
あの子なら、あるいはこんな事態に、わかりやすい説明を付けてくれるのかもね、なんて思い出してしまった。「緑の子」、いや、その名前はもう思い出してはいけない。彼女は不幸分子として、危険なテロリストとして自由処刑された。
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この連載について
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著者プロフィール
ライトノベル作家。2006年『SAS スペシャル・アナスタシア・サービス』で第1回ノベルジャパン大賞優秀賞受賞、同書でデビュー。2012年にはボカロPである、うたたP氏と楽曲制作をコラボ。作詞を手掛けた『こちら、幸福安心委員会です。』が、投稿からわずか1ヵ月半で100万再生を突破するなど爆発的なヒットとなる。
うたたP氏が手掛けるVOCALOID-PVの動画イラストを担当。かわいさと狂気を含んだ二面性を持つ魅力的なイラストが話題を呼んだ。また、昨今は雑誌、ノベルのイラスト提供等、活躍の場を広げている。