【サイレン〈No.01〉】中央電波塔・最上階
本当に、どうしてもう、こんななのだろう。曲げた指の背に唇をあてて、少しだけ噛むようにしてしまう。感覚が少しだけ変。胸の奥に、不思議なもやもや。
「もうちょっと、こうっ。でもどうなの? これでいいの?」
つぶやいてしまう。新しい感情データ領域を確保して、並列処理で解析しつつ、まっさらな状態から学習している途中だから、しかたないのだろうか。
それにしても、もどかしい。そもそも「もどかしい」という感情勾配も、最近になってようやく学習した。
「不思議。いらいらするわけでもないし。楽しくないわけでもないのに、なんだか、このへんがおかしいし……」
胸もとに手のひらを当ててみる。鼓動が少し速くなっている、だろうか。
ちょっぴりドキドキしているんです。普通の感覚として捉えるのなら、これはきっと好奇心。もし好奇心の亜種だとしたら、私が創造された当初からの重要構成要素だから、感情勾配として、きっちり記録しておかなければ。
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