小説投稿サイトのランキングが、全部同じストーリーになる理由
—— 前回、起業がしやすくなった今だからこそ、起業しちゃダメだ、というお話がありました。これをクリエイターに応用すると、ニコニコ動画のように、ユーザーがいつでも作品を発表できる場ができて、より世界はクリエイティブになっていくんじゃないかという説もありますが……。
川上量生(以下、川上) まあ、ウソですよね。
—— (笑)
川上 完全にウソですね。クリエイティブの楽園なんかにはなりません。オープンなマーケットで、みんながコンテンツをつくれるようになるほど、コンテンツの実質的な多様性は減るっていうのが僕の持論です。数が多いということは、ある解にむかって自動的に収束していくってことですからね。
—— 実質的な多様性が減る、とは?
川上 例えば、「小説家になろう」っていう小説投稿サイトがあるんですけど、そのランキング上位の小説の設定がほとんど一緒になってたりするんですよ。だいたい転生もので、主人公が生まれ変わって、別の人生を歩んで、活躍するっていうストーリーです(笑)。
—— ユーザーの願望が(笑)。
川上 投稿されている小説の中には本来多様性があるはずなんだけど、ランキング上位に来るものは全部似たようなものになる。ニコ動だって、いろいろな作品が投稿されていますが、何かが流行るとそれ一色になりがちです。参加数が多いってことは、逆に実質的な多様性を減らす効果があるんです。
—— じゃあ、みんながクリエイターになるってことは……。
川上 逆にクリエイティブの自由度が減るってことです。いや、個人が何をつくるのも勝手なんですけど、人気になったり売れたりするものの自由度は減っていきます。いま、アニメの製作会社はたくさんありますが、自由なアニメをつくれる会社ってほとんどないですよね。みんな似たような文脈にそったものしかつくれない。
—— たしかに、そうなってますね。
川上 いま、好きなアニメをつくれるのはジブリくらいですよね。ジブリには独自のブランドがあって、ジブリが相手にしているマーケットには、競争相手がいないからです。もし、ジブリみたいな会社が100社あったら、その中で競争しあうので、みんなが “表面上” 観たいと思っている作品しかつくれませんよ。例えば、『天空の城ラピュタ 2』とか。
—— たしかに、マーケットの要望に答えたら、『天空の城ラピュタ 2』になっちゃいますね。観たいですもん。
川上 そういう作品が大量にできると思いますよ。でも、ジブリみたいな会社は1社しかなくて、ジブリがつくったものが観たいというお客さんがたくさんいるから、作品に多様性が生まれるんです。
—— うーん、なるほど……。
川上 ゲーム業界もそうですよね。ポケットモンスターとか、ファイナルファンタジーとか、ドラゴンクエストとか、人気タイトルの続編ばかりつくられるのは、競争相手が多いからです。もし、ゲーム会社が1社しかなくて、何を出しても売れるんだったら、クリエイターは好きなものをつくりますよ。
クリエイターはぶっちゃけ増えないほうがいい
—— うーん、誰でも作品がつくれるようになっても、世界がクリエイティブな方向にいくことはないってことですか。ちょっとよくわからないのが、誰でも作品がつくれて発表できると、クリエイターがたくさん生まれます。まさにニコニコ動画はそういう場になっているわけですが、それは世界をクリエイティブにしていることにはつながらないんですか。
川上 単純にはつながらないと思いますよ。たしかに、新しいクリエイティブの場ができると、それに伴って一定量の市場が生まれるので、それを満たすためのクリエイターが登場します。座席を支配するものがいない間には、すごく自由な環境ができる。
それは、ニコニコ動画に限らず、どんなジャンルでも初期には成立するんですよ。なのに、ニコニコ動画はユーザーがつくった作品を発表できるプラットフォームだから、それゆえに新しいクリエイターがたくさん生まれたと勘違いされて、ずっとその環境が成立すると思われたんですよね。
—— ニコニコ動画がCGM※1だったことが理由ではないと。じゃあきっと、出版とかラジオとかテレビなどの従来メディアでも、初期のころは新しいクリエイターがたくさん生まれてたんですね。
※1 Consumer Generated Media。SNS、ブログなど、消費者が内容を生成していくインターネットのメディアのこと
川上 そうだと思います。そしてUGC※2も商業コンテンツも同じで、活躍できるクリエイターの枠が決まっています。オープンなマーケットが突然現れると、初期に成立した自由な環境のイメージが強くて、オープンだからチャンスがあると思い込んでしまう。でもそれはオープンだから、ではないんです。
※2 User-Generated Contents。ブログ、プロフ、Wiki、SNSなどのサイトで、利用者(ユーザ)によって制作・生成されたコンテンツのこと
—— なるほど。荒れ地に最初に入植した人と一緒ということですね。
川上 そうそう、ただの先行者メリットなんですよね(笑)。だから、いまはニコニコも新規参入しづらくなっています。昔はひとつの作品が当たれば有名になれたけど、いまはひとつの作品だけじゃ有名になれない。ニコニコがクリエイティビティを守るためには、いま人気を集めている人が人気じゃなくなることが必要なのかな、と思います。人気だから得という状況が生まれないようにするというか。どうやって新陳代謝していくかが、これからの課題ですね。
—— じゃあやっぱり起業と同じで、クリエイターになりやすい時代に、突出したクリエイターになるのは、大変なことなんですね。
川上 はい。オープンなマーケットになると、参加者が増えて、結果的にみんな等しくチャンスが減っていきます(笑)。その中で勝ち残るためには、相当努力しないといけません。あたりまえですよね。ただ、その努力をするためには生活基盤が必要だから、収入源がいるだろうと。それで、ニコニコではクリエイター奨励プログラムなどの施策をうっているわけです。
—— 競争が激しくなるから、より努力しなければいけない。だから、ポッと出で成功する人が少なくなっているということですか。
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