インディペンデント・マガジン作りの愉しみ—すべては原稿依頼から始まる

フリー編集者にして、インディペンデントマガジンの『生活考察』編集発行人でもある辻本力さん。注目されるインディペンデント・マガジンを生み出すには、どのようなことをしているのか、ここではその一端として原稿依頼にまつわる話が綴られています。居酒屋でのオファー、人気エッセイスト・岸本佐知子さんとのやりとりなどなど……企画ができるプロセスが覗けますよ!

休刊・廃刊・部数減・広告収入減……雑誌不況が叫ばれるこのご時勢にあって、面白い存在としてちょっと注目されているのが、ミニコミをはじめとするインディペンデント・マガジンです。かくいう私も「生活」をテーマにした『生活考察』なるインディペンデント・マガジンを作っています。まだVol.03までしか出せていない新参者ではありますが、この度「どうやって作っているのか書け」というご依頼を賜り、こうして書き出してみた次第です。

まずは自己紹介がてら、なぜ「生活」なのか、簡単に触れておきます。私は以前、水戸芸術館という茨城県にある文化施設で『WALK』という機関誌を作っていました。その最終号である「日記」特集号が、「生活」というものに目を向ける大きなきっかけとなりました。

それは、小説家・評論家・音楽家・舞台人など、とにかくいろいろな方に約1カ月間、日記をつけてもらい、それをひたすら収録した「丸1冊、ただただ日記しか載っていない日記特集号」という前代未聞の、そして考えようによってはたいへんフザケタ1冊で(巻頭言や編集後記までも、「編集日記」という名目で日記にしてしまいました)、私は最初、日記という「形式」に面白さを見出しこの特集を始めたのでしたが、いつしかそこで描かれている内実—つまり生活自体に魅了されていたのです。

私たちのまわりには、じつにさまざまな生活のカタチがあり、それぞれがゴツゴツと異質なものとして勝手気ままにやりながら、でも時に交差したり、干渉し合ったりしながら同居しています。そして、それら個々の生活は、傍目にはどれだけ奇異に映ろうとも、どれだけ破綻しているように見えようとも、その生活を送る当人にとっては、それが「普通の生活」です。そんな当たり前のことにあらためて気付いた時、ちょっとびっくりしてしまったのです。「生活って、面白いな」と。

往々にして私たちは、当たり前過ぎるものには特段注意を払いません。『生活考察』は、そんな誰もが有す「ありふれたもの」であるところの「生活」を、想像力でもって照射し、再発見することを目的に創刊した雑誌です。


『生活考察』Vol.3

さて、そのような雑誌をどのように作っているのか? しかし、じつは明確に「これ」という作り方があるわけではなければ、ノウハウなんてものもありません。限りなく行き当たりばったりに近い。そうした自由が許されるのもインディペンデント・マガジンならではですが、とはいえそんな弊誌にあっても、「エッセイをメインコンテンツにする」という基本的な構成はあり、全体の約7割は寄稿によるエッセイで占められています。つまり、何をおいても、まず原稿がなければ始まりません。

通常、依頼の際には、それぞれの執筆者と相談して、その内容を詰めていきますが、全体に大きく「生活」というテーマがあるため、各原稿においては、原則、各々の生活に根ざしてさえいれば、ある程度までは何を書いていただいてもOKだったりします。つまり、執筆者が何かテーマがあったほうが書きやすい方なのか、それともある程度お任せで自由に書いていただいたほうがよい方なのか、まずはそれによってお願いの仕方が変わってきます。

このへんは本当にまちまちなので、臨機応変といったところですが、ちなみに前者の場合、その方の書いた(作った)作品がヒントになることが多いです。私は、作品には作者の生活が何らかの形で滲んでいると考えるので、作品において、作者の生活上の実感が読み取れる(と思われる)部分を見つけることで、面白そうなテーマが浮かんでくることがあります。

また、「生活」をテーマにしているゆえか、ツイッターもかなり参考になります。定点観測的に特定の人物のツイートを眺めていると、その人の生活上のこだわりや、日々気にしている事象などが、なんとなく見えてくることがあります。なので、気になる継続性のある生活ツイートを発見した時には、「企画のネタになるかも?」と、それとなく注意しておきます。

あるいは、そうした「予感」以前の茫漠とした「もやもや」が、ふとした瞬間、偶然見聞きしたものなどと結びついて、一気に具体的な姿を伴い再帰してくることがあります。もし、そうならない時は、物は試しと、その「もやもや」をツイートの主にぶつけてしまうことも。以降のやり取りの過程で、意外な形で面白い企画に成長していく可能性があるからです。

あと、こんなことを書いてしまってよいのか分かりませんが、原稿依頼に関して、個人的にかなり重要視しているのが、酒の席での会話です。飲み会やイベントの打ち上げの席は、まさしく題材の宝庫。そうした場で聞いた話が記憶に残り、「あの時のあの話で原稿をいただけないでしょうか?」なんて依頼の仕方をしたことも、じつはけっこうあります。飲んだ翌日まで覚えていて、かつ酒が抜けた頭で考えてみてもなお面白い話であれば、原稿を依頼するに値する話です。

そして、この読みが外れたことは、今のところありません。……などと書くと、「酒を飲むための口実じゃないの?!」というツッコミが入りそうですが、まあそう取っていただいても、あながち間違いではないため反論もできないのですけども。ただ、いつもべろんべろんに酔っ払いながらも、大事な“仕事場”であることは忘れていないつもりです、たぶん。

さて、上手くいくこともあれば、同じくらい上手くいかないこともあるのが世の常です。原稿を依頼したものの、話がまとまらなかったり、さまざまな理由から引き受けてもらえないことがあります。ひじょうによくある、というか、半分くらいはそんな感じかもしれません。

前述のVol.03に、「とんと記憶にございません。~岸本佐知子 vs. 岸本佐知子~」という、タイトルからその内容を想像するのは少々難しいであろう企画が収録されています。岸本さんは、訳する作品の面白さ・ユニークさに定評のある人気翻訳家ですが、同時にエッセイの名手としても知られています。弊誌の7割がエッセイで構成されていることからもお分かりかりいただけるように、私は大のエッセイ好きです。

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