Amazonで“星一つ”をつけられたい
—— 今回、『百合のリアル』を出版されて、ポジティブなものとネガティブなもの、どちらが反響が多かったでしょうか。
牧村朝子(以下、牧村) 今のところ、ポジティブな感想が圧倒的に多いですね。書名に「レズビアン」という言葉を使わなかったことで、そういう話題に食ってかかりたい人のところに本が届かなかったのかもしれません。具体的には、シンプルに「おもしろい」「新しいことを知ることができた」というご感想から、「貸してくれた人と自分とで、深い対話のきっかけになった」というようなうれしいご報告までいただいています。
—— 偏見を持つ人のところにも届けたいと思っていらっしゃいましたか?
牧村 この本に関して言えば、そうではありませんでしたね。今回の本は、セクシュアリティに限らず、本の中に出てくる“はるかちゃん”(※)のように、自分の性や愛のあり方について人に言えずに悩んでいる人に向けて書いたので。かつて私自身がはるかちゃんと同じ高校生だった時、私は「レズビアン」とか「性」とかいう言葉がタイトルに入った本を手に取れなかったんですね。人目も気になるし、何かいけない扉を開けてしまうような気がして。
※『百合のリアル』の登場人物。16歳の女子高生。女の子を好きな自分に気がついているが、それを受け入れがたい気持ちに悩んでいる。
岩井志麻子(以下、岩井) たしかに、そういうためらいがあるかもしれないですね。
牧村 けれどもその時の自分に、知識、対話、そして誰かの経験談があれば、独りで悩まずに済んだと思うんです。だから、あの時欲しかったものを、タイトルに「レズビアン」とは入れずに、やわらかい言葉で一冊の本にまとめたのが『百合のリアル』です。
もちろん、著者としては売れてほしいですし、何よりもっと、こうした話題についての議論が起こってほしいなとは思っています。担当編集者の今井さんとも、「Amazonのレビューで星一つの評価をつけられるくらいにならないとね』って話しています。
岩井 じゃあ、私が書きましょうかね。これはヒドイ!って(笑)。
牧村 あははは。
レズビアンは爪を伸ばさない?
岩井 そういえば私、ホモセクシュアルっていうのは美少年と美少年によるものなんだ、っていう思い込みがあったんですよ。
牧村 あら、そうなんですか。
岩井 私が子どものころって、今で言うボーイズラブのはしりの作品が出てきた時代だったから、その影響を受けていて。萩尾望都さんとか、竹宮惠子さんとか。
牧村 ええ、漫画の神々ですね。
岩井 あの人たちが描くのは美少年ばかりでしょ。でも二丁目に行ってみたら、デブあり、オヤジありで最初驚きましたよね。ボーズ、ヒゲ、マッチョだらけ、みたいな。
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