第3回】ポエム化する都知事選

初回から大反響を読んでいるライターふたりの時事放談。今回は、社会に広まる「ポエム」の問題を取り上げます。NHK『クローズアップ現代』が取り上げた、「やりがいの搾取」に使われるポエムの問題にとどまらず、ついにポエムは政治の世界にまで!? 注目の都知事選で飛び交うポエムとはいったいなんでしょうか……?

盛り上がるポエム化

おぐらりゅうじ(以下、おぐら) またテレビの話で恐縮ですが(笑)、NHK『クローズアップ現代』*1のポエムの回が話題になってましたね。いわゆる、居酒屋やラーメン屋で見かける「叶わなかった夢があっても、君は君のままでいいんだよ。また別の夢を見ればいい」とか「あなたが生まれてきたことが奇跡」みたいなポエミー思想をテーマにした番組。あれ、すごい速水さんが普段書いてるテーマっぽいと思ったんですけど。
*1 「あふれる“ポエム”?! ~不透明な社会を覆うやさしいコトバ~」

速水健朗(以下、速水) 実は俺も結構初期の段階で取材受けてるんだよ。スタジオには呼ばれなかったけど。ケータイ小説とかラーメンポエムの話とか、まさにこれまで扱ってきたテーマで聞かれて。でも結局、スタジオに呼ばれたのは、社会学者の阿部真大さんと小田嶋隆さん。マンションポエムの大山顕と俺がスタジオに呼ばれなかった理由を俺らは真摯に考える必要があるね。

おぐら 出版業界の格差! まあでも小田嶋さんは呼ばれますよね。キャスティングする側にとっては、メディア露出の多さは何よりの担保ですから。

速水 ポエムの本も出しているしね。もうひとりは、社会学者とか出しておけってのもわかるっちゃわかる。

おぐら 番組側の主旨というか切り口としては、ネットをはじめ一般的な反応である「うわぁ……」的な引いた感じでもなく、これ見よがしに批判したりバカにしたりするでもなく、いたって冷静に現象と向き合って、そのうえで「これは社会問題です」と提起していました。

速水 そうか。僕や大山顕だと、それ自体をおもしろがったり、ポエムそのものの分析を始めてしまいそうだしね。団地団*2のイベントになっちゃう。
*2 速水と「工場萌え」で知られる写真家・大山顕、脚本家・佐藤大によるイベントの名前。主に団地や団地が登場する映画やアニメなどを語る。2012年には書籍『団地団 ~ベランダから見渡す映画論~』(キネマ旬報)を発売。

おぐら 番組はポエムそのものに主眼を置いていたわけではなく、あくまで低収入で働く若者の労働環境としてポエムにスポットを当てて、昨今の労働問題とつなげていましたね。

速水 そう。労働者に夢を語らせて、「やりがいの搾取」という形で過酷な労働環境を強いるみたいな。いわゆる自己啓発ビジネスの話になっていた。あそこに出てくる「居酒屋甲子園」の話は、僕は2008年に出した『自分探しが止まらない』(ソフトバンク新書)の中でも取りあげてる。でも、今回のクロ現は、映像の強さってものをまざまざと見せつけた。あきらかに気持ち悪いものとして伝わってしまった。

おぐら ああいう場面では、文章や写真より、映像はずっと強いですよ。まさに加工ナシで“ありのまま”の状態で出されるほうがインパクトが大きい。とはいえ、夕方のワイドショーとかだったら、もっと茶化して「ちょっと見てよー。ウケるー」ぐらいの軽薄なつくりになっていてもおかしくない。そこはNHKという説得力も大いに加担していたと思います。

速水 取りあげられた「居酒屋甲子園」の側は、「報道に関するお詫び」としてウェブ上で声明を出した。そこでは、だまし討ちに遭ったって反論しているんだよね。NHK側の取材依頼文には「低温世代といわれる若者たちのこころをどう動かすか、その取り組みの様子を取材しております。」と書いてあったから受けたと。

おぐら だまし討ちかぁ……。でも、たとえば森達也さんは、ドキュメンタリーにおいて完全なる客観はあり得ない、主観こそ最優先、という旨の発言をしていますし、そもそも番組の主観を一切なくして、ひたすら客観的に「居酒屋甲子園」の映像を流したとしたら、それは『クローズアップ現代』という番組名を体現したつくりではなく、ただの『密着!居酒屋甲子園』になるわけで、まったく意味合いが変わってきます。

速水 さらに「このような報道になったことは誠に残念であります。」とも書いている。まあ、浅はかだよね。自分たちがやっていることの気持ち悪さに自覚がなかった時点で。NHKが意図をもって切り取った部分はあるとしても、映像を見せてあとは見る側に委ねるということをやっただけなわけで、だまし討ちとはいえないでしょう。

おぐら 出版物では言ってないことを勝手に載せられたり、発言そのものを意図的に書き換えるなんてことも物理的に起こりえますが、映像の場合、映っている事象自体は紛れも無く事実ですからね。

都知事選へGO!

速水 メッセージよりも画が強いっていうのはさ、また紅白の話になるけど、今回が最後だった北島三郎の隣に自然に木村拓哉が寄っていってマイクを持ってツーショットになった場面があったのね。ああいうところはキムタクは天才的だよ。このツーショットは、サブちゃん去りし後の紅白は、俺が受け継ぐというメッセージとして人は見る。本来であれば森進一であったり、五木ひろしが欲しいポジションのはずなんだよね。政治的なセンスとしかいいようがない。

おぐら 政治的なセンス! いや、見立てとしてはすごくおもしろいし、説得力もありますけど、正直そこまで紅白を深読みして見てる人、まずいないですよ!

— 政治といえば、最近のテレビは投票日の迫った都知事選ばかりになっていますね。

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おぐらりゅうじ /速水健朗

政治、経済、文化、食など、さまざまジャンルを独特な視線で切り取る速水健朗さんと、『TVブロス』編集部員としてとがった企画を打ち出し、テレビの放送作家としても活躍するおぐらりゅうじさん。この気鋭のふたりのライターが、世の中のニュースを好...もっと読む

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コメント

ukitazume ポエム化する都知事選| 5年弱前 replyretweetfavorite

k_kabesan ポエム化する都知事選| 5年弱前 replyretweetfavorite

matomotei ホントに『空位』って選択肢が欲しい選挙あるもんなぁ… / “ポエム化する都知事選| 他1コメント http://t.co/UoeasxKRfm 5年弱前 replyretweetfavorite

matomotei ホントに『空位』って選択肢が欲しい選挙あるもんなぁ… / “ポエム化する都知事選| 他1コメント http://t.co/UoeasxKRfm 5年弱前 replyretweetfavorite