温井川聖美[16:39−16:42]
41 サトミ16:39:11
だから、そうじゃないっての。
だいたい、あんた自分が自殺した
い理由も言ってないじゃん。そん
なんでどうしてこっちに納得して
引き下がれってのよ?
理由言いなさいよ、理由。なんで
死にたいのか。なんで一人じゃダ
メなのか。なんで徳永といっしょ
に死にたいのか。あんたの「完璧
な場所」とか「最良の方法」って
のは何なのか。 まずはそこからよ。
その後ひとしきり、常連どものカキコがあってから。
55 〈17〉16:42:49
わかりました、ではこうしましょ
う。
──その後に続いた予想外の文章に、あたしは思わず指を止める。
枯野透[16:42]
「……おい!」
駅前ロータリーの彼方から誰かの叫び声がした。僕は反射的に、手にしていた双眼鏡をかまえた。
「──藤堂だ、今の! ──車まわせ、早く!」
横断歩道の反対側、ロータリーの隅にマーチがいた。大きな赤っぽい車の横で、ヤンキー連合の残りと何かしゃべってる。もしくは言い合いをしている。どっちにしても、あまり穏便な雰囲気じゃなかった。ひどく嫌な予感がした。
ぐるりと双眼鏡で左右を捜す。
たった今まで左側の大通りにいた徳永は──影もかたちもなし。
他の仲間たちは──近くには誰もいない。
そしてマーチの様子は──青い顔して、目尻に涙をうかべて、まわりを不安げに見回してる。絶対に何かまずいことに巻き込まれてるな、あれは。
そして今の僕にできるのは──僕はくしゃみをこらえた。しゃっくりのような変な音がした。
鼻がむず痒い。喉の奥もザラザラしてる。急に、疲れといっしょに大きな自己嫌悪の波がおしよせてきた。いやはや、まったく! なんだって僕はこうまでして、次から次へと人助けばかり試みてるんだろう? たいした成功の実績もなしに?
いったいなんのために?
「マーチ!」
深呼吸して、再び走り出す。走りながら僕はゆっくりと考える。のんびりと、でもなく、じっくりと、でもない。心を落ち着かせ、大事なことをゆっくりと僕は考える。ぼくのおじさんが、いつもそうしているように。
──そいつは大事な疑問だな。どれ、ゆっくり考えよう。
子供の僕が発したいろんな疑問に、おじさんはそんなふうに言ってから腕組みをしたものだった。
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