渡部亜希穂[16:42]
「──いいい今ホノカが! 車にとびのって! 徳永、徳永も!」
〈もしもし、おちついて亜希穂さん! 場所は?〉
「駅前、駅前のロータリーのちょっと先! さ、さ、さらわれちゃいました!」
〈了解! ここからだと、どっち方向?〉
「南、そこから南いってすぐ左ですっ!」
左右田正義[16:31−16:42]
「──っと待ておら」
「は、はい?」
声かけてきたのは、さっきとは別のやつで、でもパーカーは同じデザイン。
「おまえ、あれか。もしかして徳永の知り合いか。捜してんだろあいつ。ああ?」
「はっはいっ、いえちがちが」
「んああ?」
「いっいえっそのっ」
なんでこいつらが徳永の名前を知ってるんだよ? なんだかもう疑問だらけで、がくがくしてるし膝も、でもなんで膝ってこんな柔らかいんだろうな、それになんかトイレいきたくなってきたぞ、こいつらナイフとか持ってる、ぜったい持ってるぞ。ここは言うとおりに、そうだ、相手の要求をまず呑めばいい、こんなとこでこんな奴ら相手に怪我してって損ばっかりだぜ。ようするに人生、自分の安全を確保するのが一番重要なんだよな。
「は、はい、あの、なんでしょうか?」
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。