折口歩乃果[16:39]
「ジュンくんジュンくんジュンくうんっ!!」
ああどうしよう、どうしよう!
どっちを見ても無限に続く商店街。十字路、裏路地、見知らぬ他人。迷宮だ、ここは直角のラビリンスだ。東ホールより百倍もややこしい! ああ、こんなことなら毎日まじめに帰宅なんかしないで、もっと吉祥寺で遊びまわってればよかった!
というわけで赤いコートを握りしめたまま、わたしは全力で走る。走るしかない。
「ジュンくううぅぅぅんっ!」
枯野透[16:39−16:40]
アーケードの下を走りぬけ、大きな交差点、赤信号。あわてて右へ──曲がったら目の前にヤンキー軍団がいた。
「うわあああ!」
百八〇度ターン! おばさん二人組にぶつかり、謝り、駆け出し、さらに細い路地を右、左、右。
古本屋の脇道でふりむくと、アキホさんがいなかった。代わりにいたのは『班長さん』と、あとは品の良さそうな男子が一名。ササウラの言っていた「イスミのやつ」に違いない、と僕は消去法で見当をつけた。二人はケータイで内緒話をしていた。
「……何やってんの?」
なんでこの人たち、目の前の相手とケータイで会話してるんだ?
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。