われわれならユーザー体験のすべてに責任が負える——スティーブ・ジョブズ
早朝、アラームの音で目覚める。鳴っているのはiPhoneだ。気付けば何年も目覚まし時計を使っていない。iPhoneが1台あれば十分なのだ。
天気を調べ、一日のスケジュールをチェックする。通勤中はお気に入りの音楽を聴きながらニュースを斜め読み。午前の会議では簡易ボイスレコーダーにも早変わりだ。午後は初めての取引先にあいさつ。地図で場所を調べ、お土産用のケーキ屋も調べておこう。道に迷ってもナビになる。途中、面白い看板を見かけたのでパチリ。帰りの電車はゲームで息抜きだ。帰ってベッドに寝転がり、動画を楽しみながら眠りに就く──。
「iPhoneで何でもできるという雰囲気になっている。その空気が一番怖い」
ある精密機器メーカーの中堅社員は、こう漏らす。
Illustration by T.S.
iPhoneやiPadの登場で、機能が一つしかない製品の市場が食い荒らされている。その最たる例が、コンパクトデジタルカメラ(コンデジ)だろう。
常に持ち歩くiPhoneなどのスマートフォンは日常の撮影風景を一変させた。食事などの何げない風景を手軽に撮って、すぐにインターネットにアップできる。メモ代わりに写真を撮る、この使い道は、コンデジが狙ってきたマーケットだった。コンデジ市場は2008年の出荷額1兆6386億円、出荷台数1億1007万台(カメラ映像機器工業会調べ)をピークに、減少の一途をたどる。
「コンデジのローエンドモデルはいずれスマホに食われる。製品のラインアップをそろえるためにローエンドモデルを出してはいるが、続ける意味があるのだろうか」とあるカメラメーカー幹部はぼやく。
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