笹浦耕[16:35]
そうそう、パトカーのサイレン。
水の中からでも、わりとよく聞こえんだよな。あの音。あと、橋の振動とかも。硬くて重い靴がドタドタって駆けてくるのが聞こえてたよ。
なんかすげー真面目な靴音だった。
まっすぐで、緊張してて、でも必要以上に入れ込んでない、こいつは普段どおりの仕事ですからねって感じの音。おかしな話だけどさ。それだけはすぐに理解できた。
それは、大人たちの音だった。
枯野透[16:38]
気がつくと僕らは駅むこうのアーケード街を迷走していた。僕と、そしてアキホさんだけ。他の仲間は? 徳永は?
「……どっち!?」
「わ、わかんないですうっ!」
アキホさんは泣き顔。僕はパニック。『半額セール!』の垂れ幕と門松の間から、買い物客の皆さんが、顔面蒼白な僕らを不審げに見つめてる。そりゃそうだろうな。さて、徳永は? どこにもいない。他の仲間たちとも、はぐれてしまった。というより、ここがどこかさえ分からない! どこもかしこもバーゲン、セール、宅配しますの張り紙ばかり。僕は天井を見上げる。左右に並ぶA HAPPY NEW YEARの旗の彼方に……文字だ。
サンモール。
サンモールって吉祥寺のどこ? 僕は最後の命綱にすがる。ササウラの番号に。このドタバタ劇に主役がいるとしたら、彼こそがそれだ。発信履歴。再発信。頼む、ササウラ!