笹浦耕[16:31]
「だってマリエさんが行けって!」折口が怒鳴り返してくる。「連絡あったから! 歩道橋へ急行って!」
「なんでだよ! 誰だそんな連絡したの!」
「誰ってあなたでしょ!」
「はあぁ!?」
「だって順番決めてたじゃないですか! 連絡の! 左右田くん、笹浦さん、マリエさんって!」
「してねーよ!! つーかなんでオレが──」
待てよ。てことはつまり。
オレら一斉にふりむいた。なんか知らねーけど、地面にコケてるボケ野郎もふりむいた。公園の南側、がら空きになってやがる!
今から池をぐるっと回って南へ──ってけっこう遠いよ! 絶対間に合わねーよ! けどオレ、とにかく全力で走り出した。
だって、やんなきゃなんねーことは、やんなきゃなんねーでしょうが。とほほ。
「ササウラさん!?」
「うるせー! 徳永のド阿呆がこっち戻ってきたら、ちゃんとつかまえろ!」
池を回って南の岸、池を回って南の岸だ!
風が冷たい。無気味な空のネズミ色。視界を横切る木の幹の彼方で、赤いコートが見えては隠れる。圧倒的に速い。橋を渡りきって遊歩道を抜けたら、そっから南はどこまでも住宅街だ。包囲網もヒントも何もない、無限に広い東京だ。
広すぎんだよ、くそ東京! 聞いてんのかこら!
息が切れる。脚がもつれる。こうなったらもう、あとは西のやつが橋のたもとで通せんぼでもして、時間稼いでくれんのを祈るしかない。
それにしても普段なに食ってやがんだ、あのド阿呆? つーか今日だけ変なもんでも食ったのか? 体育祭ん時は、あんなに速くなかったぞ!