在所惟信[16:27−16:29]
そしたら
「へえ? お家はどちら?」
「あ、荻窪のほうです。西荻と荻窪の間くらいで。だから、わりと近く」
「ああそうなんだ。ええと──在所くん、だったっけ? 珍しい苗字よねえ」
「ええ、まあ」
「もしかして建築家の在所
「あ、そうですけど。よく知ってますね」
「あらあ、有名じゃない。そうか、てことは君のお父さまは社長さんね、ゼータ製薬の。それにほら、前に副総理だった在所
「大叔父です。おばあさまの弟の」
うん、そこんとこはその時もちょっと不思議に思ったんですよね、なんでそっちのほうが後から出てくるかなあって。
だって、ぜったい大叔父さんのほうが有名ですから。有名ってのは、TVとか新聞に出てる人のことであってですね。治英おじさん、メディアの露出嫌いだから、出たことほとんどないでしょ?
「大丈夫なの、お家の方? 心配してらっしゃらない?」
その時の口調は、困ってるっていうか、なんかくすぐったいのを我慢してるみたいな感じだったのは分かりましたよ。うん。いやほんとに。
「でもないですよ、べつに。マーチと一緒だって伝言しておいたし」
「あらそう? うちのマナちゃんはね、ほんとはこんなことしてないで早く局に行かないとまずいんだけど……」
「あ、年越し特番でしょ、今夜の! 俺、まじ録画予約してます!」
ようやく会話の糸口つかめたんで、あん時は一気に喋っちゃいまして。だっていきなり『ファンです』とか叫んだら、なんか変なやつだと思われちゃうかもだし。でしょ?
「マナちゃんまじで超最高ですよ! キャラ立ってるしアドリブきくし! そういやファンクラブ立ち上げって話、あの後どうなったんですか?」
「あら、嬉しいお言葉。うーんファンクラブの件はね、もうちょっとしたらまた正式にね。そうそう、これどうぞ。これからも是非うちのオサリバン・愛をよろしくね」
って名刺もらえたんで、ひゃっほー! でしたよ、あん時は。そしたら、
「あ、あたしちょっと買い物思い出しちゃった。そこのコンビニ行ってくるから、見張り番お願いできる?」
「は、はい、もちろん!」
左右田正義[16:29]
〈S09よりS–COMへ。状況に変化は?〉
ササウラの
〈S–COM、変化なし。引き続き探索続行のこと〉
〈
〈
あのササウラってやつ、わりとつかえる。ノブより上かも。金は持ってなさそうだけど、そのぶん閃き能力は悪くない。っておれほどじゃねえけどな。だってブログを妨害するって策も、この包囲網の配置も、おれが考えたようなもんだし。うんそうだ。おれが先に思いついてた、まちがいない。ちょっと言うのが遅かっただけで。だから本当はおれのアイデアなんだ。
昔からそうだ。ボヤボヤしてると、手柄ぶんどられちまう。思ったことを先に言われて、褒められるのは他の奴ら。おれ、基本的に人が好すぎるからな。人徳ありすぎると損するぜ、まったく。
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