折口歩乃果 [16:08−16:09]
目に見えない切っ先で狙いを定め、わたしはプランどおりの会話を、なにげなーく
「死んじゃうのって」
「ん?」
「きっと痛いですよねー」
「うーん。そりゃまあ。死に方にもよるんだろうけど」
「まわりにも迷惑かかっちゃうし。親とか悲しむだろうし」
「そう。そこだよな、やっぱ」
うん。反応よし。いい色だわ。
「あたしだったら、きっと、そんなこと考えても、すぐにやめちゃおうって思っちゃいます」
「うん。だよな。普通そうだよ」
「そう。想像できませんよね」
「想像できないよな」
「でも……それでも自殺したがるってことは……よっぽどつらかったんでしょうね、徳永くん」
「ん?」
「だって」さあ、ここが肝心だ。「死ぬことが悪いことだってわかってて……親を悲しませるってわかってて……
そうなんだ。
耐えられないほどの苦痛。普通のあたしたちには想像もつかない苦行。周囲を悲しませざるをえないほどの。
そういうイメージでジュンくんの気持ちを捉え直す。捉え直させる。
死ぬのは苦しいこと、迷惑なこと、いけないこと──だったら、それを敢えてやろうって決心したってことは、きっと死ぬこと以上に苦しいことがあったに違いない。
死の苦痛を、大きく想像すればするほど。
それを敢えて望む理由は、もっと大きく映る。
「なにか、きっと……あたしたちには想像もつかないくらい苦しいことが」
そう。
あたしがエミリとメールで議論した成果は、そこなのだった。
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