笹浦耕[16:00]
──電車乗り換えたり、伊隅とメールしたり、しのぶさんの無事を確認したりしながら、オレは状況を検討してみた。で、いくつか分かったこと、つーか腑に落ちたことがある。
その一。徳永とファブリのあいだには
でなきゃ、部室の掃除の件をファブリが知ってるはずがない。〈トウコ〉さんの証言(をカラノ経由でオレが聞いたところ)と
たったの十七分。
その間に、あの野郎は徳永とコンタクトをとり、部室の件を聞き出したことになる。
どうやってだ?
ファミレスで出くわしたって可能性も、なくはない。
他にも、たとえばファブリが中坊時代の徳永の塾の非常勤講師でしたとか、生き別れの兄でしたとか、レチクル星からやって来た超能力者として大銀河邪悪帝国の侵略をふせぐためにクローン戦士の徳永をリクルートしに来ましたとかでも、オレには否定しきれない。だって「可能性」なんだもん。どんなことだってゼロじゃない。
その二。どのみちオレには(あるいはカラノ・トオルにも)、現状のままで〈捜索隊〉メンバーを完全に守りきることなんかできない。
ファブリの野郎は〈トウコ〉さんのケータイを持ってる。つまり、オレたちのメアドはもう知られてる。うち何人か、たとえば〈トウコ〉さんと直の知り合いの西なんかは、電話番号もだ。てことは住所もそのうちバレるだろう。オレたちは、どうあがいても、「軽くケア」される危険性が高い。
イコール目玉一個。
命は取られないにしても、ド阿呆の自殺を止める代償にしちゃ高すぎるっつーの。まじで。
でもそれが、今のオレたちの正直な状況なんだ。ドロドロした底に手を突っ込んで、箱の蓋を開けちまった報いなんだ。電話とメールの結果なんだ。
オレたちはメールで、電話で、つながってる。良いことも悪いことも、ぜんぶ電波を通じて流れ込む。
電話ってのは、まじでとんでもねー機械だ。
つーか電話でもって伝わっちゃう、この「言葉」ってもんは。
なんていうんだろ。ほんと。悪性のウイルスみたいなもんだ。言葉のウイルス。うん、そんなとこだ。聞かされたら、逃げることもできない。知っちまったら、引き返せなくなる。
オレは──オレらは、それをよく分ってなかった。遺書メールとかいって、人の生き死にのことなのに、どっかで軽く考えてた。イヤんなったらやめればいいや、どうせいずれは見つかるさ、くらいの気持ちがどっかにあった。
人助け。〈捜索隊〉。参加します。
自分の言葉がそのへんで終わると思ってた。
でもそうじゃない。言葉はどこまでもひろがっていく。でもって、ぜんぜん別の、もっと危ねー言葉と勝手にリンクしちゃうこともあり得るんだ。もう、参加とりやめはできない。おりる方法はない。オレらは分かってなかった。分かってるつもりだったけど、ほんとのところは違かった。
けどファブリのくそ野郎は──あいつだけは──ちゃんと理解してやがったんだ。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。