パート6. そして2vs12 枯野透[15:57−]

僕はアキホさんを信じる。ササウラを信じる。母さんの拳骨経由の愛情を信じる。そして、このおかしな大晦日という一日を信じる――高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。頭脳派、お人好し、リーダー気取り、犯罪者まで入り乱れて彼と彼を導く殺人鬼(?)〈17〉に迫ります! 15人24時間の大晦日から始まる群像サスペンス長編! 読みはじめたら止まれない、ライトノベル史上〈もっとも長い一日〉をご堪能ください。(イラスト:箸井地図)

枯野透カラノトオル[15:57−16:00]

「……へぐじ!」
 僕のクシャミに、車内の全員が顔をあげた。だめだこりゃ。完全に風邪ひいちゃったな。
 見知らぬ人たちにむかって、僕は軽く会釈をした。髪の毛を紫に染めた和服のおばあさんが、はす向かいの席から心配そうに首をかしげてる。ありがとう、名前も知らないおばあさん。僕は大丈夫ですよ。
 ふと、これから合流する〈捜索隊〉メンバーのことを思った。ササウラ、マリエさん、ノブ、イスミくん、マナさん、それから折口おりぐちさん。左右田そうだとアキホさん以外のみんなとは、まだ画面の文字でしか出逢ったことがない。マナさんだけは写メールで見てるけど。
 いずれにせよ、この忙しい大晦日に、それでも誰かを助けようと集まってくれた素敵な仲間たちだ。
 あのファブリとかいう人物のことは、たしかに心配だった。けれど、僕は心のどこかでひどく安心していた。
 ササウラ。彼が、きっと何かうまい方法を思いついてくれる。顔も知らない彼のことを、僕はいつのまにか信頼していた。メールでしか知らない相手。過去も本心も分からない人間。それでも。それだからこそ。
 彼の書きっぷり、単語の選び方、何もかもがひどくぶっきらぼう。でも、ちゃんとすぐに返信してくる。無駄なことを書かない。こちらの答えてほしいことを的確に書いてくる。それは温かさだ。冷たさをよそおった思いやりだ。ササウラのメールは、一つ残らずそんなふうだった。
 わざと他人との距離を遠めにとっている。なぜってそのほうが相手を傷つけないから。そんな『心の車幅感覚』みたいなものを、僕は彼の文字の列に感じた。同じ内容を会話で体験したら、ぜんぜん違う印象を受けたことだろう。もうちょっと他人行儀な、情の薄い、あるいはシニカルな人だと思っただろう。
 でも、僕が受け取ったのは、言葉ではなくて文字だった。
 もしかしたら文字だけのほうが、人の内面はスムーズに伝わるのかもしれない。直接出逢うことで、服装や顔つきに目を奪われて、僕たちはかえって肝心な何かを見失うのかもしれない。
 そんな、ちょっとばかり根拠薄弱な楽観を、僕は信じてしまう。けど、信じるっていうのはそもそもそういうことなんじゃないだろうか?
 僕はアキホさんを信じる。ササウラを信じる。あの新婚サラリーマン氏を信じる。母さんの拳骨経由の愛情を信じる。弟のさとるの未来が明るいことを信じる。そして、このおかしな大晦日という一日を信じる。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

ケイクス

この連載について

初回を読む
15×24(イチゴーニイヨン)link two 大人はわかっちゃくれない

新城カズマ

高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。彼を救うべく懸命に彼を探す捜索隊、否応なしに巻き込まれる者、別の思惑を抱くもの、そして殺人鬼まで……!? 15人24時間の大晦日の長編群像サスペンス、こっからが本番です! 読み...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません