パート6. そして2vs12 温井川聖美[15:38−]伊隅賢治[14:55−]

うざいんだよ、おまえら。死ぬなら勝手に死ね。不幸自慢はたくさんだ――高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。頭脳派、お人好し、リーダー気取り、犯罪者まで入り乱れて彼と彼を導く殺人鬼(?)〈17〉に迫ります! 15人24時間の大晦日から始まる群像サスペンス長編! 読みはじめたら止まれない、ライトノベル史上〈もっとも長い一日〉をご堪能ください。(イラスト:箸井地図)

温井川聖美ヌクイガワサトミ[15:38−15:41]

 念のため徳永のブログにもメッセージを残しておいてから、あたしはケータイを操作して、呆れるほど浅いネットの奥底へと沈んでゆく。
〈とりびあん相談室〉。
 ふざけた名前は、本性の隠れみのにすぎない。
 あたしは、ここの常連だった。
 だった、と過去形にするのは、自殺志願者だったあたしが立派に更生したから……じゃない。単に、ここ最近は面倒くさかったり忙しかったりで、ネットに入ってなかっただけの話だ。
 それに、もともと本気でこのサイトにのめり込んでいたわけでもない。死にたいなと思うのは手間いらずだけど、死のうとするにはそれなりの根性がいる。もしくは、とっても鋭く尖った疲労感が。
 あたしには、どちらもない。逃げ場のない息苦しさでゆっくりと押しつぶされる、そんな感触だけ(その点、あたしの日常というやつは、ちょっと生理痛に似ていなくもない……もっとも、こっちの鈍痛は月にいっぺんだけという救済条項付きだ)。
 生理痛に鎮痛剤があるように、あたしにはこのサイトがあった。自殺という選択肢が、まだそこにあると確認すること。それだけで、あたしというグータラ娘は満足できてしまう。世間の真面目な自殺志願者諸氏からすれば、あたしのような輩は顰蹙ひんしゅくものだろう。そんな奴が徳永のためにわざわざここへ舞い戻ってくるというのは、皮肉な話と言えなくもない。
 掲示板は、この半年で見慣れてしまった決まり文句ばかりだった。毎日がつらい。楽になりたい。そんなこと言うなよ、いいこともあるさ。どんな悩みなの。よかったら聞かせて。死にたい。でも死にたくない。暗号表で変換された救難信号と浮き袋たち。届いているかどうかは、どちらも定かじゃない。
 ところどころで冷笑や悪意が、邪魔くさい流木のように視界を横切る──うざいんだよ、おまえら。死ぬなら勝手に死ね。不幸自慢はたくさんだ。
 あたしは新しいスレッドをたてる。まどろっこしいから、隠語への変換はやらない。ここのルールに反するけど、どうせ二度と来るつもりはないんだから、問題なしだ。人間、後腐れがないと大胆になれる。あたしはふと、自爆テロリストの心理を垣間見れたような気になる。傲慢なことに。

33:【連絡】今夜、徳永と心中し
たがってる〈17〉へ【緊急】

1 サトミ   15:40:44
話がしたいんだけど〈17〉。
ここ見てるのはわかってんだよ。
さっさと出てきな。

 返事を待つより他に、今のあたしにできることはない。
 そして同時に、それほど長く待たずにすみそうだという予感も、あたしの中にはある。


伊隅賢治イスミケンジ[14:55−15:47]

 双子の女性(なんとも奇妙な雰囲気の二人だ……もしも徳永のやつがあんなに不安定な状態でなければ、ボクはけっして彼女たちに同行することには同意しなかったろう)が差し出したのは、よもぎ味の菓子パンだった。受け取ってから、ボクはそっと賞味期限を確認する。危険はなさそうだが、なんとなく気味が悪い。双子と老人はニコニコ顔で食べ始めている。徳永は食べながら(と言うよりも、食べかけのパンを手にしたまま)二人に膝枕をされて目をつむっている。やはり、かなり疲れている様子だ。考えてみれば、こいつは昼飯を食べていない(ボクは阿佐ヶ谷のネットカフェでカレーを注文していた)。すこし考えてから、ボクは双子にむかって訊ねる。
「すみません。お手洗いどこですか。あと、自販機とかは」
「お手洗い? ええとな、そこちょいと行ったあたりにあるで」
 二人の指差す方角へ進み、途中にあった自販機でジュースを買い、菓子パンの包装を捨て、中身は細かく千切ってトイレに流した。戻ってみると、もう徳永は起きていて、ホームレスの老人が何やら独り言を言っている。一瞬、ボクの心臓が大きく脈をうつ。もしもあと五分余計に離れていて、その間に徳永がどこかへ行ってしまっていたら。さっきみたいなパニックになって走り出していたら。危うく大失態を犯すところだった。駄目だ。今後はけっして、こいつから目を離してはいけない。
「あの……どこかネット見れるとこ、知りませんか?」
 急に徳永が言う。予期してしかるべき一言だった。〈17〉とのコンタクトを再開したいのに違いない。といっても、徳永のブログはどうせあの騒ぎのままだ。そもそも、あれを見たせいでパニックをおこしたんであって……いや待てよ。もう一か所・・・・・〈17〉と徳永が話せる・・・・・・・・・・・サイトがあるじゃないか・・・・・・・・・・・
 しまった!

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15×24(イチゴーニイヨン)link two 大人はわかっちゃくれない

新城カズマ

高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。彼を救うべく懸命に彼を探す捜索隊、否応なしに巻き込まれる者、別の思惑を抱くもの、そして殺人鬼まで……!? 15人24時間の大晦日の長編群像サスペンス、こっからが本番です! 読み...もっと読む

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