西満里衣[15:30]
「メール!」
わたしの声、直後にノブとマーチがケータイをひっぱり出す。ササウラのやつからだった。
15:30:11
件名:──
徳永のあらわれる場所
がわかった。4時半に
井の頭公園だ。捜索隊
から脱けたい奴は、い
ま言ってくれ。脱ける
機会は、この先たぶん
ないから。
なんて失礼な言い草! どこでどういう情報を手に入れたか知らないけど、脱けるの脱けないのって、どうしてササウラのやつが決めるのよ。いつのまにリーダーになったつもり? べつにわたしがリーダーってわけでもないけど。
「みんなにも来た?」
「うん」
「ああ」マーチが顔を歪める。「なんだこいつ、偉そうに。リーダーでもねえくせに」
わたし、はっとする。けれど何も言わない。
理由は自覚してる。わたしの中に小さな疑惑があるせいだ。さっきの、離れに移動しようって提案した時から。なにも『証拠物件』を運んで来なくても、わたしだけが離れに移ってもよかったはず。なのにマーチは「駅のそばのほうがいい」。そこで議論終わり。
そもそも移動のことをいうのなら、むしろわたしとトウコさんが離れに残るほうが効率的だった。認めたくないけど、わたしの車椅子と都内の交通機関はまだまだ相性が悪い。事の是非じゃなく、事実として。中野駅の一件がそれを証明してる。現実は不完全だけど、わたしだって完璧じゃない。それを認められないほど非現実的な人間じゃない。
ここは、わたしを
他の皆を
そうすべきだった。
なのに、あの時のマーチ。ひどく感情的で一方的。深く考えようとしない態度。それにトウコさんのことを「動かないほうがいい」って言った、あの口調。なんだか恨みでもあるみたいな感じだった。
マーチはまだノブにむかって怒鳴ってる。両手をふりまわして、早口で。
「──だいたい、どこから仕入れた情報なんだ? 徳永の出てくる場所がわかるんだったら、どうして今いる場所がわかんねえんだ?」
「そんなこと言われても俺……」
「いいんだよ今のは答えなくても! 修辞的疑問てやつ!」
「あのさ、俺思うんだけど、ササウラにメールで訊いてみれば……」
「わかってるよ、それくらい! 今やってるとこだよ。ていうか、おまえやれ!」
何かが変。何かが違う。わたしの中のマーチ像と、目の前の本人の言動とが、うまく結びつかない。推理を披露したさっきの彼と今の彼、まるで別人のよう。
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