第8回】設計、製造技術、特許でデザインの競争力を実現

デザインで世界を制したと賞賛されるアップルだが、洗練された製品の裏側には非効率ともいえる構造が隠されている。非常識な設計を許し、あらゆる手段を駆使して実現に奔走する。アップルのデザインの真の強さはそこにある。

人は形にして見せて貰うまで自分は何が欲しいのかわからないものだ—スティーブ・ジョブズ

 「どう分解しようか」

 9月21日朝。iPhone修理会社、アイラボファクトリーの西田誠さん(41歳)は、手に入れたばかりのiPhone5を前に心を躍らせていた。

 「ペンタローブ」と呼ばれる五角形の特殊なネジ穴に専用のドライバーを差し込んで底部の2本のネジをはずし、吸盤を使ってディスプレイを本体から取りはずす。目に飛び込んできたのは、4Sよりも小さく、密に配置された部品の数々だった。重さ112グラム、厚さ7.6ミリメートルと、4Sと比べて20%の軽量化と18%の薄型化を実現したiPhone5の心臓部だ。一つ一つ部品を取りはずすうちに、西田さんはあることに気が付いた。

 「なるほど、ネジを増やしたのか」

 従来は枠にはめ込んで固定していたいくつかの部品が、ネジ留めされているのだ。枠のスペースを減らせる分だけ、部品を密に配置できる。だが、ネジを増やすと、生産工程は増える。一般的な製造現場ではNGとされる設計だ。

 「アップルならではのスタイリッシュさを実現するために、部品をぎゅっと詰め込んでいる。日本のメーカーはここまでやらない」と西田さんは舌を巻く。

製品開発の最高権限は
デザイナーが持つ

 デザインで世界を制したと賞賛されるアップルだが、洗練された製品の裏側には非効率ともいえる構造が隠されている。非常識な設計を許し、あらゆる手段を駆使して実現に奔走する。アップルのデザインの真の強さはそこにある。

 「アップルは製品開発の最高権限をデザイナーが持つ」と語るのは、アップルと取引のある加工メーカーの元幹部のAさんだ。アップルに「デザイン」と名の付く部門は二つある。製品の開発・設計を担当するインダストリアル・デザイン(ID)と、製造現場を担当するプロダクト・デザイン(PD)だ。力関係はIDが圧倒的に上で、素材や加工方法の決定権まですべて握っている。

 いまやアップルの代名詞ともいえる、1枚のアルミニウム板から削り出して本体を作る「ユニボディ」は、その強さが出た典型だろう。ユニボディのMac Book Proが初登場した2008年当時、1台数百万円する工作機械を使っても、1日に加工できるのはせいぜい5~8台分だったという。

 日本メーカーのデザイナーが同じデザインを提案すれば、「非効率過ぎる」と製造現場の声につぶされておしまいだろう。

 だが、アップルの思考はこうだ。

 「工作機械を1000台買えばいい。そうすれば1日に5000~8000台製造できるし、機械も安く仕入れられる」

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日本を呑み込むアップルの正体【3】~アップルが変えた市場のルール

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アップルとその製品は、さまざまな分野でこれまでのルールを変えた。アプリのようにiPhoneのおかげで生まれた市場もあれば、音楽CDのように大打撃を受けた市場もある。※この連載は、2012年10月6日号に掲載された特集を再編集したもので...もっと読む

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