パート5. 大人はわかっちゃくれない ​笹浦耕[15:17−]オサリバン・愛[15:30]

あるぞ。一つだけ確実なこと。このくそ野郎の頭ん中だ。変態で、悪意だらけで、しかも阿呆じゃない。これだけは絶対に、絶対に、確実だ――高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。頭脳派、お人好し、リーダー気取り、犯罪者まで入り乱れて彼と彼を導く殺人鬼(?)〈17〉に迫ります! 15人24時間の大晦日から始まる群像サスペンス長編! 読みはじめたら止まれない、ライトノベル史上〈もっとも長い一日〉をご堪能ください。(イラスト:箸井地図)

笹浦耕[15:17−15:24]

「……もしもし?」
『井の頭公園だ。そこに来い』
 いきなり、これだもんな。
 固定電話のほうに非通知設定でかかってきて、誰かと思ったらファブリだった。オレはちょうど、テニスラケットとフライパンのどっちが近接戦闘用の武器としては打撃ダメージが大きいのかを、交互に素振りしながら比較検討してるとこだった。
「あんだってえ?」
 オレ、フライパンを握ったまんま、とぼけた返事。けど、実はすげーびびってた。
 ファブリのやつ、さっきまでの口調じゃなかった。
 ぜんぜん違かった。
『そこで一仕事してもらう。そうすれば、桜新町には近寄らずにおいてやる』
「うわっ!」
『……なに?』
「いやべつに、なんでも」
 テーブルに置いといたケータイがいきなり震え出して、もー心臓止まるかと思ったよ。まじで。
 フライパン投げ捨てて、通話ボタンをオン。えいくそ、また二つ同時か。オレは魔法使いじゃねえっつーの。
『──もしもし笹浦? カラノだけど、今こっちで大変なこ……』
「悪りい。メールにしてくれ」
『え? ああ、いいけど』
 カラノ・トオルからの一通目はすぐに来た。

件名:緊急事態
トウコさんたちが事件にまきこま
れた。ファブリって名乗ってるヤ
クザ(たぶん)が、ミスタ・ピン
クって人の携帯電話を探してる。
すごく重要な情報が中に入ってる
らしい。その携帯にさわったり、
中のデータを見たら、消されちゃ
うらしい。「ケアする」んだって
。携帯の中に重要なデータがある
ってことを知っただけでも、警察
に通報しないように「軽くケア」
されるらしい。トウコさんは相当

「どういうこったよ」
 読みながら、ファブリに返事した。
『なにがだ』
「今の話。近寄らねーって」
『そのままの意味さ。おじさんは君の家を急襲したりしない、ってこと。金輪際、絶対に』
 口調が、いつのまにか最初の感じに戻ってる。上から目線の、馴れ馴れしい喋りかた。けど、それは表面だけだ。オレにはわかった。こいつの中で何かのスイッチがオンになってる。何かがあったんだ。何か、とんでもねーことが。

されるらしい。トウコさんは相当
怖がってる。さっきまで彼女とミ
ツハシさんがつかまってて、この
話を聞かされて「軽いケア」の対
象になった。ファブリはミツハシ
さんが携帯を奪って隠したんじゃ
ないかと疑ってる。もしも彼が中
身を見てたら、「本格的なケア」
の対象になる。
で、ミツハシさんはトウコさんを
逃がそうとして戦って、今は連絡
がつかない。トウコさんのほうは

 ってつまり、そーゆーことがあったわけね。
「へーん」
『なんだ、ずいぶん気のない返事だなあ。もうちょっと感謝してくれるかと思ったのに。君の自宅も御家族も、無事ですむんだよ? あ、ちなみに君んちって何人家族?』
「どうやって信用しろってんだよ」

がつかない。トウコさんのほうは
うまく逃げだして公衆電話からか
けてきたけど切れちゃった。彼女
の携帯はファブリに盗られたって
言ってた。
どうしたらいいのか、相談したい
んだ。やっぱり警察に通報すべき
だろうか?

『言ってる意味がよく分からないなあ』
「だから、なんで信じなくちゃいけねーんだよ、てめーを。だいたい『一仕事』って何だよ」
 適当に受け答えしながら、指先は〈トオル〉への返事書き。だんだん慣れてきたぞ、この二元中継。人間の体って偉大だなあ。

件名:Re: 緊急事態
ちょっと待った。てことは、おま
えもオレも「軽くケア」されるっ
てこと? だって「携帯が重要」
って知っちゃってんだろ!?

『それは現地に行けば分かるよ。楽しみは後にとっておかなくちゃ』
「わけ分かんねえっつーの」
『うーん、まあそうだなあ。──人手が足りなくなっちゃった、とだけ言っておこうか。おじさんもちょっと身動きとれなくてね。だから君は、おじさんの臨時雇いの代理人ってことで』
「はあ?」
『この井の頭公園ってとこに行って、ある人物からある品物を受け取って、それをおじさんに渡してくれればいいだけ。簡単だろ?』
「なんだよそれ。ついさっきは、九時に会おうねとか言ってたくせに。これだから大人ってのは信用でき……」
 ケータイの振動。カラノだ。

件名:Re: Re: 緊急事態
もしもこのメールのやりとりをフ
ァブリが知ったら、そういうこと
になるね。
ちなみに「軽いケア」=指一本ま
たは眼球一個らしい。

 ……ちょっと待てこら! なにが「そういうことになるね」だ!
『思いもよらない突発事がおこるのが、人生ってものなんだよ。さっき教えただろう』
「憶えてねーよ」
 くそ。カラノ・トオルのやつ、底抜けのお人好しか、さもなきゃただのド阿呆だ。目ん玉一個だと? なんでオレ(だけ)をまきこむんだよ!
 まったく徳永といい、カラノといい……オレ、猛然と返信。

件名:Re: Re: Re: 緊急事態
なんでオレにだけ言うんだよ!?

『それは嘘だね。君が忘れるはずがない。できる子なんだから、君は』
「るせえ。高校入試前の担任か、おまえは」

件名:Re: Re: Re: Re: 緊急事態
君が、いちばん頼りになりそうだ
ったから……なんだけど。
あと、もうひとつ情報。ファブリ
は部下の数が足りなくて困ってる
らしい。

『はは、いいねそれは。入試前の担任ねえ。実はおじさん、学校の先生になりたかったんだよ。知ってた? でもいろいろ事情があって、大学に行けなくてねえ』
「それも信用できねーよ」
『あ、そう? ふーん。……わかった。じゃあ、こういうのはどうだい』
 やつの声は、そこから急にフラットになった。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

ケイクス

この連載について

初回を読む
15×24(イチゴーニイヨン)link two 大人はわかっちゃくれない

新城カズマ

高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。彼を救うべく懸命に彼を探す捜索隊、否応なしに巻き込まれる者、別の思惑を抱くもの、そして殺人鬼まで……!? 15人24時間の大晦日の長編群像サスペンス、こっからが本番です! 読み...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません