バカな思いつきを試してみよう
とんでもない過ちを避けるための「守り」のランダム化比較実験の意義がわかったら、今度は「攻め」の姿勢をとるにあたってもランダム化比較実験がどれほど大きな意義を持つかについても考えてみよう。
ランダム化比較実験は過ちを犯す可能性を小さなコストとリスクでつぶすことができる。これを逆に言えば、小さなコストとリスクで「あえて間違いを犯すこともできる」ということになることがおわかり頂けるだろうか。
あるいは「あえてバカな思いつきを試す」と言い換えてもいいかもしれない。たとえばあなたが主婦向けに裁縫や編み物などのホビーグッズを通販する会社に勤めていたとして、部下や後輩が「ミシンを2台買ったら1割引きっていうキャンペーンはどうですかね?」というアイディアを提案してきたらどうするだろうか?
ミシンなんて普通一家に1台あれば事足りる物である。仮に裁縫を趣味にする女性が2名以上いる大家族だって、わざわざミシンを取り合うことはないだろう。まっとうな感覚を持った大人の多くは、「こいつは何をバカなことを言ってるのか」と一笑に付してしまうのではないだろうか。
だが、これはわざわざ私が考えた「バカな思いつきのたとえ話」ではない。それどころかこの「バカな思いつき」は、実在するアメリカの企業において顧客1人あたりの売上高を3倍以上に増加させた、とんでもない大成功キャンペーンのもとになったのである。