「ハバタク」HPより
世界のグローバル化・フラット化が避けがたい流れとして押し寄せているが、国内には問題が山積している。教育でも産業界でもその状況は変わらない。そんななか、民間からもユニークな試みが生まれ始めている。
今回紹介するのは教育分野からスタートし、先進的な取り組みで活動を広げているベンチャー企業「ハバタク株式会社」だ。代表取締役の長井悠さんはもともと東大で藝術系の研究者を目指していたという変わり種。ハバタクのユニークさの源泉はどこにあるのか、話を伺ってみた。
「世界に羽ばたく人を応援したい」
---まず「ハバタク」という社名、ストレートでいいですよね。僕もよく「世界に羽ばたく」などと口にしますが、そのたびに貴社を思い出してしまいます。
ありがとうございます。実は昨年末にコクヨファーニチャーさん主催の「社名の由来コンテスト」で大賞を頂くという栄誉も授かりました。
---由来はずばり「世界に羽ばたく」ですか?
それともう一つ言葉をかけていまして、"Have a Takt"(自らの人生の指揮棒を持て)というメッセージです。早口で発音すると「ハバタク」って聞こえますよね。
---なるほど、凝っていますね。
ハバタクの理念はまさにこの2つなんです。「世界に羽ばたく人を応援したい」という想いと、「夢や志にしたがって自分で人生を切り拓いていくという生き方を当たり前にしていきたい」という想いですね。
「ハバタク」HPより
藝術にはじまり、藝術に終わった学生時代
---WEBや 名刺を拝見していても、一瞬、いい意味で「あれ、デザイン事務所なのかな?」と思うようなつくりをしていますよね。教育に携わるプレーヤーはけっこう肩肘 張ったところが多い印象があるのだけど、ハバタクはその対極をいっている。なぜこんなユニークな会社が出来上がったのか、まずそこから伺ってもよいでしょうか。
長井さんは東大の藝術系の研究室出身ということですが、もともと藝術方面に興味があったのですか?
はい、小さいころからクラシック音楽が好きでピアノとチェロをやっていました。一時は若気の至りで藝大を目指したこともありましたが、さすがにハードルが高く、「実は藝術系の研究室があるらしい」という噂を聞いて東大を狙うことにしました。部活優先の生活を送っていたために受験勉強は難航しましたが、なんとかストレート合格することができました。そして、美学藝術学研究室に所属し、修士課程まで修了しました。
---まず、そもそもの質問で申し訳ないんですが、「美学」って何ですか?
美学は哲学のカテゴリの一つです。人間の価値判断基準って3つしかないんですよ。1) 真か偽か 2) 善か悪か そして、3) 美か醜か です。その3つ目を扱うのが美学です。
---理屈としては分かるけど、なんだか身近な気がしませんね。
いや、実はとても身近なんですよ。「美的体験」というのは、別に高尚な藝術だけの話ではないんです。例えばファッションや家具のデザインに惚れ込む、ってことありますよね。あるいはJ-POPやマンガにハマる、とか。いま、一番身近なのはFacebookの「いいね!」かもしれません。
---なるほど、ロジックでは説明できないような「感覚」とか「共感」とか「感動」みたいなものであれば、何でも研究対象になるわけですね。
そうです。いまビジネスの現場では「デザイン思考」「共感マーケティング」「ストーリーテリング」「U理論」など、いわゆる右脳系のアプローチが盛んですよね。これは入学当時気づいていなかったことですが、実はこれらの基礎が美学にはありました。私は知らず知らずのうちにビジネスの最前線で勃興しつつあったトレンドを学んでいたわけです
---それは面白いですね。ダニエル・ピンク氏の著書「ハイ・コンセプト」では「MBAからMFA(藝術系修士号)へ」という人材ニーズの変遷が言及されていましたが、期せずしてその流れに乗っていたと。
バッハの研究者からビジネスコンサルタントへ
---このままいくと、もう立派な藝術系の研究者としてキャリアが見えてきそうですが。
しかし、私の研究テーマの性質上レコード産業の中身を調べる必要が出てきてしまい、そのためにはビジネスというものの仕組みや、そのなかに分け入る調査方法を知る必要がありました。自分の探究を将来的に完遂する意味でも、一度ビジネスに身を投じてみようと決めました。
---なるほど、それでIBMのコンサル部隊として働くことになったんですね。これまた、あまり聞いたことがないキャリアですね。
はい、私も会ったことがありません(笑)。おそらく変人枠で採用されたのでしょう。
---藝術系の研究者からコンサルタントへ。研究のキャリアはコンサルティング業務に役立ちましたか?
結論から言えば、非常に役立ちました。資料のストーリーづくりや表現方法を工夫したり、お客様の新サービスの名称を考案したりといったことをしていたら、「ちょっと変なことができるヤツ」というポジションを築くことができました。
そのおかげか、社内でも珍しいメディア系のプロジェクトにアサインされ、最終的には新規事業立ち上げ要員としてお客様と一緒に机を並べさせていただく経験もしました。当時左脳偏重だったコンサル文化のなかにいながら、お客様の右脳系の話にもついていけるということで重宝していただいたようです。
---なるほど、MFAとしての価値をいかんなく発揮していたのですね。この調子だと、ビジネスコンサルタントとして順調なキャリアを歩みそうですが…。
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