第37回】伝統は継承できないこともある。血だらけのイルカ漁は日本の将来のためにやめたほうがいい

去年、ノルウェーのベルゲンという美しい港町で、有名なレストランに行って、「オードブルのお勧めは何ですか」と聞いたら、クジラの生肉のマリネを勧められ、少し驚いた。日本人だと知っていたので勧めたのか? アメリカ人やドイツ人なら、クジラ肉と聞いただけで怒り出す可能性がある。怒らないまでも、絶対に食べなかっただろう。


〔PHOTO〕gettyimages

今でも商業捕鯨を続けているノルウェー

去年、ノルウェーのベルゲンという美しい港町で、有名なレストランに行って、「オードブルのお勧めは何ですか」と聞いたら、クジラの生肉のマリネを勧められ、少し驚いた。日本人だと知っていたので勧めたのか? アメリカ人やドイツ人なら、クジラ肉と聞いただけで怒り出す可能性がある。怒らないまでも、絶対に食べなかっただろう。

私が昔、東京で、ドイツ在住アメリカ人の接待をしたとき、おでん屋に行ったら、鯨の脂身があった。これは関西では「コロ」と言って、昔はおでんには欠かせない食材だった。大阪出身の私はとても嬉しくなり、勇んで頼もうとすると、そのアメリカ人は「僕は捕鯨には反対だ」と言って不服そうな顔をした。私は、何食わぬ顔で、一人でコロを食べた。

ちなみに、ノルウェーの鯨はとてもおいしくて、生で頂くなら、お刺身よりもマリネの方が良いと思ったほどだ。それにしても、ノルウェー人は、このご時世に堂々と鯨をメニューに載せているところが凄い。

現在、公式に捕鯨をしているのは、ノルウェーの他にはアイスランドと日本だけだ。ただ、この2ヵ国は調査捕鯨と銘打っており、ノルウェーのように商業捕鯨はしていない。もっとも、九州のお寿司屋さんなどでは、「網に間違って掛かってしまった鯨」が結構しょっちゅう出るが、堂々とは並べられていない。

欧米人は、鯨にとても優しい

去る1月20日、面白いことがあった。おりしも、17日より26日までベルリンで、"グリーン・ウィーク・ベルリン"という食品フェアが開かれていたのだが、ノルウェーのスタンドで、クジラ肉が販売されていたというのだ。それも、私がノルウェーで美味しいと太鼓判を押した鯨のマリネだ。

ドイツでは、クジラ肉は輸入も販売も禁止されている。"グリーン・ウィーク"は、食料品、農産物などのフェアでは世界一の規模と言われているので、出展している食品販売者が、鯨肉の輸出入に関する法律を知らなかったわけがない。ということは、そのノルウェーの会社は違法であると知りながら、素知らぬ顔で鯨を売っていたのである。

それを『ベルリン新聞』というかなり左巻きの新聞が見つけ、警察に知らせ、税関の役人が駆け付けた。結果、鯨肉が3キロ押収され、販売者は罰金だけでなく、拘留される可能性もあるという。環境保護団体は、この事件を酷いスキャンダルであるとして、検査を強めることを求めている。ヒステリックこの上ない。

一昔前、石油の利用が始まる前には、欧米人は鯨油のためだけに大量にクジラを殺していたのである。日本人が、1頭のクジラを、それこそ余すところのないほどきれいに使ったのとは裏腹に、彼らは油を採れば、あとの大部分は海に捨てていた。ところが、今はもう鯨油は必要なくなったので、以来、欧米人は、鯨にとても優しい。

つい先日は、和歌山県太地町のイルカ漁のニュースが、血なまぐさい大量殺戮としてドイツで大々的に流れた。"南京虐殺"と掛けたのか、"イルカ虐殺"などという言葉も出てきた。日本人は、人間も鯨もイルカも殺す残虐な民族なのである。ドイツ人は、イルカには、鯨によりもさらに優しい。

1月20日にZDF(ドイツ第2テレビ放送)のオンラインニュースに載った記事では、「世界中で起こっている抗議を無視して、日本はなおもイルカを殺し続けている。(中略) 駐日アメリカ大使もイルカの殺戮に対して深い憂慮を表明した」というのがリード。そして次のように続く。

「血なまぐさい殺戮:日本の漁民は何千頭ものイルカを捕っている。動物保護者と緑の党の党員は憤慨している。『毎年行われているイルカと鯨の殺戮は終わらせるべきだ』と緑の党のレナーテ・キューナスト。『ドイツ政府は日本に対し、明確な意思表示をしなくてはいけない。鯨とイルカは漁民のライバルではない。保護されるべき友である』」

何千頭というのはちょっと大げさだが、ただ、こういうニュースは、海外に住む者にとっては大変厄介だ。なぜかというと、イルカが殺されたり、海がイルカの血で真っ赤になったりしている映像は、誰が見ても気持ちのよいものではないからだ。だから、日本人として太地のイルカ漁の弁護をしたくても、「これの何が悪い!?」と胸を張っては言いにくい。映像は確かに残酷だ。

ただ、「牛や豚や鶏の屠殺場も、同じように残酷で可哀そうでしょう」といっても、何だか言い訳っぽく響いてよろしくない。しかも、食用にあまり使っていないとすれば、なおのこと、何のために殺すのかということになる。結局、情けないが、「いや、いや、まあ、まあ」と口ごもって終わり。困ったことに、大方のドイツ人は、日本全国で、こういう漁が恒常的に行われていると思っているのである。

和歌山県の太地町というのは人口3500人の小さな町で、捕鯨やイルカ漁では400年の伝統を誇っているという。しかも、現在、無秩序にイルカを捕獲しているわけではなく、国が行っている科学的な調査に基づいて、資源量が十分なイルカだけを、毎年頭数を決めて捕っているらしいが、そんなことを言っても、欧米人は聞く耳を持たない。自分たちのイメージでは、イルカは犬や猫と同じくお友達で、殺したり、食べたりしてはいけない動物なのだ。

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シュトゥットガルト通信

川口マーン惠美

シュトゥットガルト在住の筆者が、ドイツ、EUから見た日本、世界をテーマにお送りします。

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kawalle 海外在住の日本人として、個人的感情も政治的イデオロギーもないそのままの実話だろうね。同じような話は他でもあるよ。ー>  4年以上前 replyretweetfavorite