“花の都”にだまされて

「花の都」と称され、雑誌やテレビでもその優雅なイメージが特集されることの多い、フランスの首都・パリ。私もパリジェンヌになって人生を満喫したい! そう思ってフランス人と結婚し、パリに移住したライターの中村綾花さん。バラ色のおしゃれ生活が始まると思いきや、彼女の前に姿をあらわしたのは、メディアでは取り上げられない、ありのままのパリの“素顔”でした。

仕事よりも恋!のパリジェンヌに憧れて

みなさん初めまして。33歳の中村綾花と申します。パリに住んでちょうど4年目です。

パリに住んでいると言えば、日本人のみなさんは「へぇ〜素敵!」と思うかもしれませんが、逆に、「けっ、なにがパリだ。セレブを気取りやがって」とつぶやく人も多いでしょう。

というのも、実は私自身が、現地を訪れるまで「パリなんて……」と思っていたからです。それくらい、パリと言えば、なんだか「女子っぽい」、とにかく「おしゃれ」なイメージで、パリジェンヌなどというのは同じ人間だと思えない、ファッション雑誌の中だけの存在だったのでした。

そんな私がなぜパリに住むことになったのか?

そのきっかけは「婚活」でした。日本で彼氏ができなくてできなくて、ならばと世界へ飛び出して結婚相手探しを始めたのです。そうして、ヨーロッパの国々に立ち寄った際、初めてフランス・パリの地を踏みます。

婚活の旅のなかでいろいろな海外の街を見てきましたが、こんなにもイメージをぶち壊された街というのは、パリ以外にありませんでした。

とにかくイメージ以上にとてつもなくむきだしの「愛」にあふれていたのです。

道端や美術館やレストランカフェ、地下鉄の中、街のいたるところでパリジャンたちがキスしてるんです。

チュチュチュ、チュ—っとすごい音を立てて。

40代はとうに超えたマダムを、 20代の若いツバメがはしゃいで追いかけながらチューしたり、髪の毛が真っ白で小さなおじいちゃんとおばあちゃんも、駅のホームで別れ惜しそうにチュ。自分の親と同じくらいの熟年カップルが歩道を陣取って映画のワンシーンを演じるような濃厚なチュウ。

最初は恥ずかしくて目のやり場に困り、一人で心臓が破裂しそうになってました。他人のチュウなのに。

東京でも、週末の渋谷駅で若いカップルがねっとりべったりくっ付いて、え? チュー、してんの? なんなの!? じめじめしちゃってもう! という光景を見かけますが、パリジャンやパリジェンヌたちのチューはあれとは全然違うのです。

なんというかドラマがあるんです。

最近は彼らのチューになれて終始観察したり、こっそり撮影すらしてしまいますが、カップルごとにチューの種類も違うことが分かってきました。

いやいやいやいや、もうそれセックスでしょう! というチューもあったりと、そのチューには語らずとも語られる愛のキャッチボールがあり、二人の周りだけ愛の讃歌がBGMで流れて、映画の撮影が行われているようなオーラに包まれているんです。

おもいっきり愛し合い、愛する事を楽しむ、愛むき出しのパリジャンたち。

人生で一番甘くておいしい時を体現する彼らのアムール・オーラが半端ないのです。

これは一部の例外なのだろうかと、身近なパリジャンたちに実際話を聞いてみると「仕事より恋が大事に決まってるじゃないか」「仕事よりヴァカンス命よ!」と言い切る人がわんさかいて、さらに驚きました。「上司が職場に残ってようと、デートがあるから先に帰る」というのは、フランス国民に染み渡っている常識だったのです。

なんだこの天国は、と私は思いました。

「恋に本気で生きていい」、こんな奇跡のような場所が地球上にあっただなんて。

私はセーヌ川にかかる橋の上から夕暮れのパリを眺め、失神しそうに美しいこの街は、 恋するために用意された舞台なのだと気づきました。

その時まさに愛に飢えてカラッカラの干物状態だった私は 、結婚なんてどうでもいいということを実感しました。この街で見たパリジャンたちのようにチュッチュしたり、「仕事より愛でしょ」と断言する日常を生きてみたい。ただただ愛し、愛されたい! パリならばそれができる! そう思って体の芯が沸騰するのを感じました。

そうして実際にパリで今の夫に出会い結婚、パリでの生活をスタートしたのです。この辺りの話は長くなるのでまた追って!

旅行では見えなかった意外すぎる素顔

めでたしめでたし……と思いますよね。

ところがどっこい、住み始めると、旅行では見えなかったパリのあらゆるものが見えてくるようになりました。

恋愛のための舞台装置だと思っていた美しい街・パリに、実はとんでもない素顔がたくさんあったのです。

まず、「花の都」と呼ばれるくらいだから、街には花やパルファン(香水)の匂いがあふれて綺麗なのかと思いきや……道端や地下鉄のホームがとってもクサいんです。

それだけでなく、そのせいもあるかもしれないのですが……近所ではバイクやバスがなぜか丸焦げになったり、道端に犬の落とし物があちこちに転がっていたりします。人の糞尿の匂いまでただよっていることがあります。おそるおそる目を向けると、そこには昨晩飲み過ぎたであろう酔っぱらいの立ち小便が滝のように流れた跡が……鼻が曲がりそうな匂いに、思わず顔をしかめるしかありません。

街はクサいけど、そこに住んでいるパリジャンたちはやっぱりおしゃれなんでしょ? と思うかもしれません。いやいや、彼ら自身も、日本で読むファッション雑誌の「フィガロ」で紹介されるモードなスタイルやフランス映画「アメリ」の洗練されたイメージとは全然ちがいます。もっと貧乏で質素な格好をしているのです。

よーく見てみると、彼らの着ているセーターは毛玉だらけ。さらには脇や肘の部分にぽっこりと穴が空いていたり、手にひっさげている鞄もズタボロになって、角が破れたりほつれたりしてます。日本ではありえない使い倒し加減です。シーズンごとに服を新調するのはごくわずかなセレブかファッション中毒者のみ。それ以外のパリジャンはたとえ欲しいものがあっても即買いせず、セールの時期を狙って事前に試着を済ませ、本番を迎え、本当にほしいアイテムだけを買うのです。

そうそう、旅行で来たときには、「愛」にあふれた陽気な人々ばかりだろうと思っていましたが、住んでみると、その印象を裏切られることもありました。

というのも、とにかく接客態度が酷いのです。カフェに行っても、スーパーに行ってもお客様は神様ではなく、ただの人間。同等ならまだしも、自分たち以下だと思っているような態度をされることが珍しくありません。パリに住んで4年目に突入した私も、カフェの店員が女性の時には未だに緊張します。猛禽動物かと思うほど凶暴なのがいて、女の私には笑顔も見せず目も合わせず乱暴に注文を取るくせに、私の連れの男性には急に愛想を振りまいたりという豹変ぶりなのです。猛禽ではありませんが、うちの近所のスーパーのおばさんはいつもムッスリして、私がお札で会計をしようとすると「小銭がないから小銭で払え」と文句を言ってくるのでビクビクしてしまいます。

きったなくて、貧乏で意地悪で、不機嫌な人間がゴロゴロいるパリ。

想像していた華やかなイメージに裏切られることで生じる心の病「パリ症候群」におちいってしまう人もいるほどです。

それでも「素直」なパリが好き

じゃあ日本に帰りたいのか?と聞かれると……私はそんなことはありません。時々ホームシックにもなりますが、イメージとはまったく違ったのになぜか居心地は悪くないのです。

それは、パリジャンたちがとても素直に生きているだけだから、なのかもしれません。

たとえば、恋に狂った(?)マダム同士が路上で掴み合いのケンカをしている場面も、見ていて愛おしくなるほど本性丸出し(ケンカを止めようとする通りがかりのムッシューたちがいるのもまたパリです)。スーパーのおばさんも機嫌が悪いときは悪いし、良いときは良い。それって、人間らしいってことなんじゃないかと思うのです。

こんな風に人間らしく、素直に生きるって日本ではかなり難しくないでしょうか?

パリジャンは嫌いなものを、嫌いだと悟られないように気を使う、なんてことはありません。嫌いなものは嫌い、好きなものは好き、そういう生き方をすると、自分の人生の優先順位がはっきりしてきます。仕事に生きるではなく、愛に生きる。ヴァカンスのために仕事を頑張る、という風にです。

結構、日本人は無理しているなとパリに来て改めて思いました。

何かイヤなこと、つらいことがあっても仕事中は何もなかったかのように接客したり、パソコンに向かって黙々としたりして、冷静を装うのが当たり前。

私は日本にいて失恋した時、会社にいくのも精一杯で仕事中パソコンの前で涙が止まらなくなったり、会議中話がまったく頭にはいってこなくて散々なことがありました。でもこんなにつらそうな人、しかもそれが表に漏れている人は、自分以外には職場で見たことがありませんでした。みんな、いろいろと人生あるだろうによく平気な顔して仕事できているな、と一人で驚いたものです。

でも、それだといつか張りつめた糸がきれてしまいませんか?

つらいときは、つらい、機嫌が悪いときは悪い、そして、そこそこ適当。こう素直に生きる事は、確かに周りの人から見るとちょっと迷惑ですが、自分も無理しなくていいってことだと思います。

そんな風に生きるパリジャンたちを見て、私はなんだか楽になりました。

パリに来てからは自然とリラ〜ックスして毎日心も顔も素っぴんで過ごせるようになったのです。

今後、この連載ではそういった一般で知られるイメージとは違う、パリの素っぴんの部分を、セレブではない質素生活を地でいく私がお伝えしていこうと思っています。

この連載について

パリジャン十色

中村綾花

“花の都”と称され、雑誌やテレビでもその優雅なイメージが特集されることの多い、フランスの首都・パリ。パンやスイーツはおいしいし、ファッションは最先端だし、歴史ある建物たちも美しいし、住んでいる人もおしゃれな人ばかり……と思いきや、パリ...もっと読む

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コメント

Otsuka_Kousuke  最後の意味段落(それでも「素直」なパリが好き のところ)の部分に共感を覚えた。 約3年前 replyretweetfavorite

ayakahan チューチュー!“@shanty_coco: 道端でチューーーー!♡ ” 3年以上前 replyretweetfavorite

shanty_coco パリジャンは嫌いなものを嫌いだと悟られないように気を使うなんてことはありません。嫌いなものは嫌い好きなものは好きそういう生き方をすると自分の人生の優先順位がはっきりしてきます。仕事に生きるではなく、愛に生きる 花の都にだまされて https://t.co/BY1dWunwvb 3年以上前 replyretweetfavorite

shanty_coco 道端でチューーーー!♡ 3年以上前 replyretweetfavorite