テレビを見ている人のリテラシー
—— まずは、昨年大晦日のテレビの話からにしましょうか?
速水健朗(以下、速水) 「フジテレビ2.0」の話題(ティム・オライリー的な意味ではなく、フジテレビ大晦日特番の視聴率が2.0%を記録)とかもあるけど、やっぱり紅白歌合戦かな。ここ10年で最高の視聴率を記録。去年のドラマブームと相まって、テレビ復活という声も上がってるけど。紅白、観てた?
おぐらりゅうじ(以下、おぐら) 途中から観ました。西野カナ目当てに。
速水 えーと、なぜに西野カナ(笑)?
おぐら 西野カナ、大好きなんですよ。別に一周まわって、とかじゃなくて。とくにギャル文化から決別して以降は相当いいです。
速水 確かに、昨今のあゆの歌唱力に比べると安定感半端ないね。
おぐら 歌詞に注目されがちだけど、あの歌唱力は普通に評価されてもいいと思いますよ。
速水 再注目キャラ?
おぐら はい。けど全然、誰もわかってくれませんね……。あゆっていうか、西野カナの会いたくて震えちゃうメンヘルな感じは、本谷有希子とかにぶつけたらおもしろいと思うんですよね。もしくは、aikoとか。対談やりたいなぁ。あ、ちなみに今は1人でロンドンに行ってます。
速水 西野カナの近況まで押さえてるんだ(笑)。
おぐら ブログに書いてありました。でも彼女にはぜひTwitterをやってほしい。今も公式アカウントはあるんですけど、あくまで宣伝用って感じなので、「会いたすぎてツラい」でもいいし、もっと夜中とかに思わずこぼれる剥き出しの心情を吐き出す別アカを望んでいます。ちなみに、この前『POPEYE』のデート特集に西野カナ出てたんですよ。ほかのページと見比べると人選としてはちょっと唐突だったとはいえ、僕はまだ編集者として一度も仕事したことないので、あれはかなり悔しかったです。
……まぁいいや。速水さんは紅白見たんですか?
速水 毎年ね。紅白と正月の箱根駅伝はチェックしてますよ。
おぐら 見所としては、宮藤官九郎の脚本による『あまちゃん』番外編という感じでしたけど、それ以外で言うと、北島三郎が今回で最後という。
速水 ところが現実には、大島優子の突然の卒業宣言にさらわれてしまった。
おぐら あれってNHK的に、サブちゃんという超大御所の卒業を大島優子のサプライズに食われちゃって大丈夫なんですか?
速水 彼女には、前田敦子卒業のインパクトを超えなくてはいけないという呪縛があったんだろうね。それ故に大それたコトやったっていう部分を僕は応援したいです。僕はAKBにはまったく興味が無いんですけど、大島優子だけは乗れるんです。だけど、実際の所、あれはまったくハプニングではないよね。紅白には基本、一切のアドリブはないから。もちろん、あれは演出としての仕掛けでしかない。ネットでは炎上だったんだよね。
おぐら サブちゃんの引退式の意味合いが今年最大のトピックスなのに、大島優子が主役を気取ってみたいな。
速水 もちろん、サブちゃんとEXILEのHIROの引退というネタがあって仕掛けられたサプライズですよね。NHKの手のひらの上。手のひらの上という意味では、鉄拳のネタが遮られたことでも炎上していたけど、あれにはちょっと驚かされたというか。
おぐら 例の『あまちゃん』コーナーですね。
速水 こんな紅白は嫌だっていうネタで、「有働さんにニュースだってネタを遮られる」っていう絵を出したら、本当に有働さんに遮られて、しかもそのままニュースが差し込まれてしまったっていう。
おぐら 本当にニュースが差し込まれたんですね。
速水 当然、演出なんだけど、観ている人の一部は、ガチで時間がなくなって調整枠で使われたんだと勘違いして、「ひどい」ってツイートし始めた。
—— あれ、爆笑問題の太田もラジオで「鉄拳の出番がなくなっちゃってかわいそうだ」って発言してました。
速水 この演出が理解できないって、ピュア以前の問題だと思いますけど。テレビってこの程度のリテラシーの人が観ているのに、つまらないとか言われているのかって感じがしてしまった。昨年末の紅白の高視聴率って、この鉄拳に限らず、NHKの演出おかげだったと思います。ほぼアドリブ無しのかっちりした構成の中で、そう思わせないような危うさをきちんと演出して功を奏していた。大久保佳代子と有働アナの掛け合いも、「紅白でアドリブですか?」ってのが台本通りなのか、アドリブなのかわからないっていう。
おぐら 綾瀬はるかはどうですか。あれが演出ってコトはさすがにないですよね? 台詞が全然うまく言えてないっていう。
速水 本当に緊張しまくってたんでしょう。結果あのおかげで現場の一体感につながったよね。
おぐら Twitterでは、彼女の進行の段取りの悪さが叩かれている一方で、彼女のグッとくるグラビア写真へのリンクがRTされまくっていて、これで帳消しだっていうツイートが支持されてました。実際、綾瀬はるかは司会が本業じゃないし、つたなくてもいいじゃんって。
速水 そつなくこなした堀北真希よりも全然好感度上がったよね。
おぐら 動物的だから許せるんでしょう。堀北真希に比べると、感情だったり緊張がそのまま出ちゃうから、その生々しさが好感につながる。ただ、グラビア写真で帳消しについては、いわゆる「若くてかわいい女の子なら仕事の失敗も許す」的な発想なので、フェミとかジェンダーに過敏な人が見たら凍りつきますね。
安定の有働アナ、NHK以外はどう対抗するか?
—— 去年の最注目人物だった楽天の田中将大も出ていましたね?
おぐら え、マー君出たんですか?
速水 審査員。ももクロの応援で出てきて、一緒に写真撮影してて、すごい嬉しそうでした。もうそろそろ、マー君とももクロの絡みネタは飽きられてきてますけど。ネットでは主に、その後ろに座ってたそっくりのやつが「これ弟か?」って騒動になってました。
—— それと話題になったのが先ほども出た『あまちゃん』コーナーでした。
速水 あれもおもしろかった。これはすでにネットで語られ過ぎているネタだから多くは語らないけど。
おぐら 今回の紅白はすごい視聴率を取ったわけですけど、これって『あまちゃん』とか『半沢直樹』と一緒で、短期的な流行ですよね。継続的にテレビを見る機運として捉えたり、まるでテレビが復権したみたいに捉えるのって、ちょっと違う気がします。
速水 とはいっても、紅白は見応えありました。僕は有働由美子の力が大きいと思いました。アドリブゼロの紅白に、そうでないように見える要素を盛り込んだのは有働さんですね。彼女は「本音」と「つくりもの」のどちらでもない部分を見せる才能がある。視聴者たちの「テレビはうそもの」っていう疑念を微妙に切り崩し、なおかつ安定の進行でパッケージできる新しい時代の司会者像かなって。あとNHKには、もうひとり同じ才能を持った「さだまさし」(NHKの不定期レギュラー番組『今夜も生でさだまさし』のMC)という武器もいますけど。
—— 紅白の対抗番組は、フジテレビが2.0パーセントを記録したという以外、特に話題はなかったようですけど。
速水 最初からあきらめていた感があるラインナップでしたよね。次点はダウンタウン(『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!! 大晦日年越しスペシャル絶対に笑ってはいけない地球防衛軍24時!』)か。
おぐら 「ガキ使」の大晦日特番って、紅白のオルタナティブとして出たわけじゃないですか。ダウンタウンの芸風にもつながりますけど、権威的なものに切り込んでいくっていう。けど、今年でもう8回目なんですよね。むしろ、刷新してきた紅白よりも古く感じられるようになってしまってる。もはや定番になってしまって、紅白のオルタナティブとしての役目は完全に終わった感はありますね。
速水 その裏で『祝! 2020東京決定SP』なんて、フジテレビが完全に投げたとしか思えないっていう(笑)。
おぐら そういやTBSは何やってたんだろう?
——『年またぎスポーツ祭り』ですね。
速水 TBSも『半沢直樹』で何かやればよかったのに。総集編一挙10時間でもいいから。大晦日くらい、各局の総力戦を見せてほしいのになあ。
まだまだ続くふたりの対談。次回は紅白の裏で毎年ライブを行っている、あのアイドルたちに切り込みます! 第2回はこちらです!
(写真:小松崎拓郎)
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