第29回】本田はフリーキックを蹴るべきか、譲るべきか?

前回は、本田圭佑はミランのために、「献身的なプレーをしていて、それがチームを好転させている」とお話しました。本田はチームのために『損』をしているとも。では、本田の代名詞でもあるフリーキックの場面ではどうなんでしょう?  我を通して蹴るべき? それとも、ここでも『損』をして相手に譲るべき? 「フリーキック」をきっかけに、本田がミランで何をねらっているのかを考えていきます。

本田はいったい何をねらっているのか?

前回で語ったように、個人の面で言えば、カリアリ戦の本田は右ウイングで使われたことで『損』をしたと思う。

得意なポジションでプレーせず、チームに必要とされるプレーに徹した。さらに守備面でも奔走することで決定的なチャンスにおけるフィジカルの爆発力に悪影響を与えた可能性もある。たとえば、ヘディング時にわずかにジャンプ力が落ちる、あるいはダーッと長い距離を走ったために、ファーサイドまで引っ張るための軸足の踏み込みが甘くなってボールがGKの正面を突く、といった具合に…。

本田はいったい何をねらっているのか? とりあえず試合に出るために、言われたことを何でもやっているのか?
……あまりそういうタイプには見えないし、やらされたプレーというネガティブな印象もなかった。

そうだ。「損して得取れ」ということわざがある。本田はそれをねらっているのか?

たとえばフリーキックについて、本田は我を通して蹴るべきか、それとも譲るべきか、という議論がある。
「フリーキックを譲るべき」という主張はつまり、「損して得取れ」ということだろう。一旦そこで味方に華を持たせておくことで、自分にとって最も大事なところでチャンスが回ってくるように『貸し』を作る。するといつか、それを返してもらえると。

カリアリ戦ではキッカーをバロテッリに譲り、それが貴重な同点弾を挙げた。さらにインプレー中も、右ウイングとしてプレーに徹することで、味方の良さを生かすように『譲った』。1試合では損をしても、いずれ見返りがあるだろうと。……というのは、カリアリ戦での本田のプレー傾向について、一応、筋が通っているように思える。

だけど、どうも僕には、本田がやっていることがそういう次元の話だとは思えない。
目先の利益よりも、もっと遠くを見ているような…。

以前に読んだ雑誌の受け売りだけど、人間関係には、『損得勘定型』と、『価値観共有型』があるそうだ。
フリーキックを譲るという『損』を積極的に出すことで、いずれは『得』が回ってくる。損得勘定型は一見、理にかなっているようだが、じつは重大な欠点があるらしい。

たとえば本田がバロテッリに譲ったフリーキック。距離は20メートルくらいだったか。仮にその後、本田がフリーキックを譲ってもらったとしても、その距離が25メートル以上だったり、角度が狭かったりすると、「え? これって、あの譲ったやつの見返り? いやいや、これじゃ足らへんやん?」と、お互いの受け取り方次第で、損と得のバランスは簡単に崩れてしまう。

つまり『損得勘定型』の人間関係は、築きやすいが、もろい。そういう特徴がある。感覚的にもよくわかる話だ。
それに対し、『価値観共有型』はお互いの行動倫理を共有する。

損や得といった利益に関する概念がなく、積極的に利他的な行動を起こす。それは見返りを求めているのではなく、そうしたいから、それがお互いの目的に合致しているから行動する。目的とはもちろん、ミランの向上だ。
一見すると、本田個人に対する『得』が少ないようにも思えるが、実は長期的に見れば、人間関係からより多くの報いを受けられるのは、こちらの『価値観共有型』のほうらしい。

カリアリ戦を終えて、カカは、本田がチームのために汗をかいたことを称賛するコメントを出した。バロテッリも、ロビーニョも、カカも、おそらくチーム全員が「“ホンダ”はミランのために身を粉にして働く男だ」という印象を持ったはず。実はそれが何よりも大きかったのでは、と。

「損して得取れ」ということわざだけど、一方では、「損して“徳”取れ」という解釈もあるらしい。“得”よりも“徳”。本田を動かす行動倫理が、本田の利益ではなく、ミランの利益。そういう印象をチームメート全員が持ったとしたら…。

もしそうだとすれば、本田が得たものは、フリーキックの『貸し』とか、守備に走り回る『貸し』とか、右ウイングで窮屈にプレーした『貸し』とか、そんな小さな損得勘定とはまるで次元が異なる。

本田は今、目先の利益を見ていない?
昔からそうだったか?

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居酒屋サッカー論 ~誰でもわかる深いサッカーの観方~

清水英斗

「ボールだけを見ていても、サッカーの本当の面白さはわからない!」日本代表戦や欧州サッカーなどを題材に居酒屋のサッカー談義を盛り上げる「サッカー観戦術」を解説します。「サッカー観戦力が高まる」の著者、清水英斗さんによる、テレビ中継の解説...もっと読む

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コメント

nijuusannmiri 「、「英語力が中高生並」という指摘は、どうでもいいことだ。注目すべきは、中高生並の英語力にもかかわらず、通訳をつけずに会見にのぞんだことだろう」 5年弱前 replyretweetfavorite

n02u0_2 清水さん、やっぱシビれるぜ! 5年弱前 replyretweetfavorite

10chiaki25 "@kaizokuhide: " 内容に心底同意。 5年弱前 replyretweetfavorite

Diegopepe33 鳥肌立ったよ。。サッカー好きじゃない人にも読んでほしい。 5年弱前 replyretweetfavorite