第28回】本田が入った結果、今、ミランに面白いことが起こっている

本田圭佑がセリエAのACミランに移籍してから一ヶ月が経とうとしています。すでに本田はチームの一員として認められ、一時は2ケタ順位に沈んでいたミランも順位を上げています。でも、実際のところはどうなんでしょう? 本田加入はミランにとってプラスになっているのでしょうか? これまでの試合の「システム」「パスの成功率」「ボールポゼッション率」などから検証してみたところ、面白いことが起こっていることがわかりました。

右ウイングは本田がベストとは言いがたい

早いもので、本田圭佑がセリエAのミランに移籍してから、もうすぐ一ヶ月が経とうとしている。
ヴェローナ戦、カリアリ戦の2連勝で、ミランはようやく9位に順位を上げた。とはいえ、どちらの勝利も、辛うじて終了間際のセットプレーで決勝点を挙げたギリギリの試合。「チームが好転した」と断言するには早い。早いんだけど……。

今、ミランに起こっていることが面白い。

カリアリ戦の本田圭佑について、僕はちょっと「窮屈そうだな」と思った。右ウイングで起用されたこともそうだけど、サイドアタッカータイプでもないのに、タッチライン際にポジションを取ってボールを受け、そこで2、3人に追い込まれるなど、プレーに苦労する場面がたくさんあった。

本田の基本的なプレー姿勢は、『不動の構え』だ。膝が少し内側に入った状態で、上半身をスッと真っすぐに立て、ずっしりと重心の低い姿勢をとる。ボディーバランスが安定しているため、トラップが乱れにくく、さらに球際で相手に押されるような外圧にも強いのが特徴的だ。

ところが、その反面、本田はステップで移動できる範囲が狭い。一般的に、人間が移動するときは、動きたい方向へ体の軸を倒すことで進み、そして、止まるときには体の軸を反対側へ倒すことでブレーキをかけ、軸を直立に戻す。つまり、バランスをあえて崩す→バランスを整える、を繰り返しながら、走る→止まるを繰り返しているのだが、本田の場合は、バランスがずっしりと安定しているが故に、そのバランスを崩してアクセルを踏む軸の動きがどうしても遅くなる。ここ数年でずいぶん改善されたが、やっぱり香川真司のようなタイプに比べると、敏捷性にはかなりの差がある。どちらが優れているかというより、これはメリット、デメリットを含む『特徴』と考えるべきだろう。

セリエAのディフェンスもさすが。本田が左足に頼ってファーストタッチするタイミングを読み切り、左足に絞ってするどく間合いを寄せて行く。ここで、本田はそれをかわす敏捷性をもっていない。1対1なら体を当てて耐えることもできるが、2人、3人に囲まれるとそうはいかず、サイドからの脱出が難しい。

加えて、右サイドバックのデシリオとの連係についても、良いシーンはあるが、全体的にはまだまだ。2人のサポート距離が詰まりすぎてスペースが狭くなり、パスを受けた本田が、デシリオのマーカーを含む複数人に連動して囲い込まれるシーンが少なくなかった。現状、2人の連係は手探りでやっているイメージ。シーズン途中の冬移籍の難しいところか…。

それでも、本田は前半の途中からは簡単にボールを失わなくなり、粘って、泥臭くパスをつなぎ、ボールを生かした。素晴らしいプレーだったと思う。ただ…、

そのプレーを果たす右ウイングの役割について「本田がベストとは言いがたい」というのが僕の意見だ。本田の『特徴』と、チームにおける『タスク』が少しズレていて、いわば、本田とミランの良さの最大公約数をとったら、本田の良さが大きめに割られてしまったような、そんな感じを受けた。それが窮屈さの正体だと思う。

ただ、それにもかかわらず、本田が右ウイングの仕事を90分間全うしたこと。そこに僕は注目している。たとえばカカやロビーニョがやっているように、多くの時間を中央寄りで過ごしながら、もっと自分の長所を出しやすいスペースで、多少なりとも利己的にプレーする方法もあったはず。しかし、本田はそれを控え、タッチライン際で仕事を果たした。ここには明確な目的があったと僕は見ている。

それを語るには、ミランのチーム状況を踏まえないといけない。

本田が入った結果
ミランのシステムはこう変わった

一時は2ケタ順位にも沈んでいた低調なミラン。しかし、平均ボールポゼッション率を見ると、セリエAでトップの約60%を記録している。これは首位を走るユヴェントス、そして、それを追いかける2位ローマよりも高い数字だ。

ところが、パスの成功率とパスの本数に関しては、ミランがトップというわけではない。ミランのショートパスの本数は、1試合平均446本。ユヴェントスの472本、ローマの489本と比べても少ない。その代わりに多いのがロングパスの本数。ミランのロングパスは、1試合平均73本でリーグトップ。参考までに、ユヴェントスは62本、ローマは60本となっている。パス成功率も、ユヴェントスの86.4%、ローマの86.8%に比べ、ミランは84.7%とやや低い。ポゼッション率ではトップのミランだが、そのポゼッションの内容が、上位2チームとは少し異なるのだ。

ミランといえば、アンチェロッティ監督が確立したツリー型システム『4-3-2-1』が基本形だった(下図参照)。ときには『4-3-1-2』と、前線の形が多少変わることもあったが、アッレグリ監督の時代になっても基本的なシステムは変化していない。

これらのシステムのポイントは、ウイングを置かないところにある。初期配置ではサイドのスペースを空けておき、バロテッリ、ロビーニョ、カカらが流動的にサイドのスペースに流れたり、あるいは両サイドバックが上がったりしながらボールを受け、縦に速い攻撃を一点突破で仕掛けていく。

基点となるのは、ボランチのデ・ヨンクやモントリーヴォといったパッサーだ。彼らには素早く精度の高い縦パスを入れる能力が求められ、多くの試合で2ケタ以上のロングパスの本数を記録してきた。これは、アンチェロッティ時代にピルロが果たした役割でもある。

ところが、この戦術が機能していないのがミランの現状だった。長くボールを保持しながらも、一点突破のロングパスに合わせて味方が高い位置へ向かおうとするところで、逆に相手のインターセプトやタックルを許す。前線に攻め残りして好守が分断され、間延びしがちなミランはセカンドボールも拾えず、スカスカに空いたスペースからカウンターを食らい、安い失点を献上していく。悪循環だった。

そして、この状況を大きく変えようとしているのが、ヴェローナ戦から指揮を執ったセードルフ監督だ。ミランの布陣を『4-2-3-1』へと変更し(下図参照)、ウイングを置かない今までのシステムから、ウイングを置き、サイドを広く使うシステムに変えた。

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居酒屋サッカー論 ~誰でもわかる深いサッカーの観方~

清水英斗

「ボールだけを見ていても、サッカーの本当の面白さはわからない!」日本代表戦や欧州サッカーなどを題材に居酒屋のサッカー談義を盛り上げる「サッカー観戦術」を解説します。「サッカー観戦力が高まる」の著者、清水英斗さんによる、テレビ中継の解説...もっと読む

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コメント

takurokoma 居酒屋サッカー論もおもしろいんだよなあ。 約3年前 replyretweetfavorite

566104snow 相変わらず面白い☆ 5年弱前 replyretweetfavorite

pecojpn 約数をキーワードにミランと本田の関係を整理してるのがオモロイ。ヒデさんの理系出身ライターの本領だね: 5年弱前 replyretweetfavorite

je_pense0804 日本代表、本田圭佑が現地紙からチーム最低点を付けられたACミランvsトリノ戦。隙間時間を使い、なんとか前半までは見た。 ACミランの戦い方、課題、本田圭佑はミランにフィットするのか、等は↓の記事がとても良かった。 https://t.co/z43he94Ydu 5年弱前 replyretweetfavorite