中卒・高卒vs大卒。エンジニア同士で文化闘争が起こった
—— 前回、1年半くらい前に、エンジニアの退職者が増えた時期があったとおっしゃっていましたね。その話、もう少しうかがってもいいですか?
川上量生(以下、川上) いいですよ。基本的にうちは、エンジニアが全然辞めない会社だったんですけど、その時期に会社が始まって以来初めてといっていいくらい、たくさん辞めたんですよね。
—— そのころ、「ドワンゴを退職しました」みたいなブログをいくつか見かけました。
川上 そうそう、あの時期です。
—— なぜ、エンジニアが辞めたんでしょう。
川上 ひとつは、いろいろ変わった採用を試しているなかで、「2ちゃんねる採用」とかやってたんですよ。プログラム関連板に人材広告を載せて、2ちゃん経由で募集したんです。コミュ障でも優秀な、とがった人材がほしいと思ってやったんですけど、結果的にそのときに採った人を雇い続けられなくなって。それにともなって何人か辞めてしまいました。
—— デマを流してネットで炎上した方もいらっしゃいましたよね。彼を雇い続けるのはとても難しそうだと、傍目から見ても思いましたけど……。
川上 いやあ、無理ですよ。うーん、この問題について、どこまで話そうかな。ひとつ誤解されていたのは、そういう変わった人を僕が好んで雇っていると思われていたことですね。そうではなくて、むしろ僕は最初から、採用するのはやめたほうがいいんじゃないか、と言っていたんです。
—— そうだったんですか。
川上 でも、社員のなかに「僕が面倒を見ますから」と申し出た人たちがいました。そういう社員がいるなら会社としても、多少問題がある人も守っていこうと思った。でもけっきょく、そういった人を守ろうとした社員の何人かが、耐え切れなくなってしまった。それでは本末転倒なんです。基本的な考えとして、ドワンゴは慈善事業としてやっているわけではありません。会社である以上は、経済合理性で人を雇うべきです。
—— そうですね。
川上 問題があるなら、それを上回る何かがないといけない。さっきおっしゃったように、ある人が震災当日にデマを流したことで炎上したのはご存知ですよね。それによって企業としてのブランドが毀損された部分はありましたが、僕はクビにすることではないと判断しました。でも、彼を守ろうとした社員が何人も精神的に参っちゃったので、これでは会社としての経済合理性が成り立たない。それで、辞めてもらいました。
これはおそらく、一般的な会社の基準で辞めさせたのとはだいぶ違うと思います。一般的基準だったら、10回くらいはクビになっていると思います。
—— 彼は、できるエンジニアではあったんですか?
川上 まあ、優秀でしたよ。実際エンジニアとして、パフォーマンスを定量的に出していたかといえば、そうは言えないでしょうけど。でも、彼を雇うことによって得られるものもありました。みんなが彼をカバーしようと思ってがんばっていたし、どんな人でもいい面を探してあげるのはすごく重要だとわかりました。だから、彼を守っていた社員には、これに懲りずにまたやろうって話しましたけどね(笑)。
でもやっぱりこの件で、一度雇った人を切る会社なんだと失望して、辞めてしまったエンジニアがいたんです。
—— それが、1年半前にエンジニアの離職が増えた原因だったと。
川上 それだけじゃないですけどね。もうひとつの原因は、ネットのつながりで、勉強会経由でリクルートした人たちが集団で辞めてしまったことです。
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