正月という存在自体が、一年を通して最大の伝統行事だからでしょうか。新年を迎えると、なんだか日本文化のよさにたくさん触れたい気持ちになりませんか? 今回も、日本美術の粋が観られる展覧会をご紹介いたしたく存じます。
東京国立博物館平成館ではじまった、「クリーブランド美術館展 名画でたどる日本の美」です。日本美術なのに、クリーブランド美術館ってどういうこと? そうお思いになりますよね。米国オハイオ州にある巨大な美術館なのですが、そこには日本美術の一大コレクションがあるのです。その数、2000点に迫るというから相当な規模ですよ。その名品を、ごっそりと日本に運んできたのが今展ということになります。
なぜ米国に、日本美術コレクションが収蔵されているのでしょうか。明治期以降、西洋文化の摂取に忙殺されていた日本では、古来の文化に対して冷淡な一面がありました。そんな古びたものよりも、西洋の「進んだ美術」をもっと知らねばならないとの発想だったのですね。
価値を見出されずに捨て置かれていた作品は、心ある海外の収集家の手によって、大量に海を渡っていったのです。浮世絵の優れたコレクションが欧米にいくつもあるのは、そうした事情によるものです。
クリーブランド美術館の場合、戦後の日本でGHQ連合国軍総司令部美術部局に勤めていた人物が、館長を務めたことを契機としています。GHQの仕事として日本の古美術調査した経験を生かし、日本美術コレクションを館の目玉としたのです。
そんな経緯もあるからか、同館コレクションは、各時代の日本の社会や文化の特徴をよく表す作品が多く揃っています。それは今回の展示からも見てとれますよ。
たとえば、江戸時代に山本梅逸が描いた《群舞図》は、宴の盛り上がりの様子を、障子越しの人の影によって表現しています。また、室町時代の《薄図屏風》は、その名の通りススキが描かれています。というより、ススキしか描かれていません。背景はなく、それがどんな状況でどこに生えているのか、画面内に情報は一切ありません。ススキの葉の質感などを表現しようという意思も感じ取れません。きわめて意匠的。つまりどちらの作も、事物が極端にデザイン化されているのです。
群舞図 山本梅逸筆 江戸時代・19世紀
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