どんな話になるか、自分でもわからず書き進めていた
柳瀬博一(以下、柳瀬) 『まほろ駅前狂騒曲』は、週刊文春に連載していたんですよね。週刊連載ということで、今までと変わったことってありましたか?
三浦しをん(以下、三浦) うーん、先が見えないこと。
柳瀬 なるほど(笑)。
三浦 普段は月刊誌の連載が多いんですが、それだと1回だいたい原稿用紙50枚や70枚くらいで依頼をいただくんです。毎回まとまったページを書くから、全体の見通しもつけやすい。でも、今回はたしか1回が15枚で、それを40週以上続けていたんですよね。数週間分ずつためて書けばよかったんですけど、私、本当に毎週、毎週、書いていたんです。
柳瀬 えっ、毎週書いてたんですか。それはまた律儀な。
三浦 だから毎回、すっごくギリギリでした。イラストの下村富美先生には本当にご迷惑をおかけしました。
柳瀬 毎週書くのって、大変じゃないですか。
三浦 いやあ、もう書くしかないっていう感じですよね。だって、書かなかったらそのページ、あぶり出し? みたいな(笑)。
柳瀬 ははは、真っ白で、あぶったら文字が出てくるかもしれないと(笑)。
三浦 ってことになっちゃうんですよ。でも最近は、週刊連載だからといって、毎週書いている人はあまりいないらしいですね。けっこうみんな、1ヶ月分とかをまとめてコンスタントに渡すと聞きました。
柳瀬 書きためて、編集部の方で週ごとに刻んでもらうらしいとは聞きますね。三浦さんは、どうして書きためなかったんですか?
三浦 えーとですね、そういうことができる人は、小説を書くだけじゃなく、他の仕事もたぶんちゃんとできると思います。
柳瀬 (笑)。
三浦 私にはそんな計画的なことは死んでも無理っす。毎週少しずつ書くので、自分でも展開がどうなるのかわからないまま書いていました。
柳瀬 じゃあプロットも行き当たりばったりで……。
三浦 登場人物の老人、岡さんがバスジャックを起こすことだけは決めていましたが。しかも1作目を書いたときから、「いつかは岡さんにバスジャックさせよう」と構想していました。
柳瀬 なんでまた?
三浦 だって、岡さん、1作目から自宅の目の前を通る横浜中央交通(横中)のバスが運行本数を減らす「間引き運転」をしているんじゃないか、と思い込んで、何度も多田と行天に見張りを依頼するじゃないですか。あそこまでバスにこだわっている岡老人のことです、最後はバスジャックくらいやらせてあげたいなあ、と(笑)
柳瀬 そんな(笑)。
三浦 でも、1作目と2作目はいわば短篇集ですから、バスジャックなんていう一大事を起こす余地がなくて、岡さんはひたすら、「横中バスは絶対に間引き運転してる」ってやきもきするしかなかったのです。
柳瀬 ずっと、多田に間引き運転してないか、見張らせてました。結局してないんですが、いつも納得していない。
三浦 それが今回は長編だから、バスジャックも起こせるぞ、と。でも、どういう展開になったらバスジャックに行き着くのか、自分でもわからなかったんですよ。
柳瀬 バスジャックは、最後のほうで物語がガーッと展開するための大きなエンジンになりますよね。それを決めずに書いていたとは……すごいですね。
三浦 単行本としてまとめるときにページ数を見てみたら、ちょうど真ん中くらいでバスジャックの流れが始まっていたんですよ。何も考えずに書いていたのに。それに気づいて、自分は天才かと! ……あ、冗談ですよ。
ジャンプ作家の気持ちを味わってみたかったけれど……
柳瀬 いや、マジで、天才っす。今回は長編なのに物語のスピード感がいっさい途切れず、つっぱしる。それって週刊連載だったからというところもあるんでしょうか?
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