まほろ駅前狂騒曲』【中編】「家族」から一番遠い存在を描きたかった。

郊外の町を舞台にしたいという思いから、自分が長年住んだ東京・町田をモデルに「まほろ」シリーズを書き始めた三浦さん。しかしそもそもは、郊外に多く住む「家族」たちの問題にふれたくて、郊外を舞台にしたかったのだと語ります。では、そんな物語の主人公に、男2人のコンビを選んだ理由は何だったのでしょうか? バツイチの便利屋と訳ありの居候が活躍する、まほろシリーズ。その最新作『まほろ駅前狂騒曲』発売を記念したインタビューの中編です。聞き手は柳瀬博一さんです。(構成:崎谷実穂)

男女ではない二人だからこそ見えるもの

三浦しをん(以下、三浦) まほろシリーズを書き始めたのは郊外の町を描きたかったからと言いましたが、もう一つ理由があるんです。郊外の町には「家族」が多く住んでいますよね。郊外を舞台にすることで、家族の問題に触れることができると思ったんです。でも、そのときに、「家族」の問題を当人たちが語るのはちょっと嫌だな、と。だから、よそのおうちにそっとお邪魔して、家庭の様子を垣間見ることができる主人公を考えたんです。

柳瀬博一(以下、柳瀬) それで便利屋の多田という設定になったんですね。

三浦 はい。で、ひとりだと寂しいだろうから、相棒として行天春彦というキャラクターをくっつけた。

柳瀬 やっかいだけど憎めない、役立たずの行天をね(笑)。いま、相棒とおっしゃいましたけど、男2人組という関係性と家族って、一番遠い存在だと思うんですよ。その2つが絡むっていうのが、このまほろシリーズのおもしろさになっていますよね。

三浦 最初はね、異性の相棒っていうのも考えたんですよ。

柳瀬 どうしてそうしなかったんですか?

三浦 「いやあ、ないわ」と思って(笑)。男女のペアにすると、いくら物語の核が家族や町の話だったとしても、「それで、この2人はどうなるの?」という方に興味が向いてしまう。恋人になったり、結婚したり、子どもができたりするのかな、という無意識の期待が、読者の心のなかに混入してしまう。同性同士だって、もちろん恋愛に発展する可能性はありますが、それを無意識に期待する読者は男女の場合より少ないだろうな、と。

柳瀬 ああ、それはそうですね。

三浦 主人公2人の関係性は、家族でも、恋人でも、友人でもない……名前のつけられない関係にしたかった。2人は仕方ないから一緒にいる。そういうどこにも足場がないようにみえる2人に、いろいろな家族をのぞき見させようと思いました。

柳瀬 はいはい。

三浦 家族の一員になりたかったけど、なれなかった人。ならなかった人。これからもなれない人。そんな人を主人公にしたかったんです。

柳瀬 そうか、だから、この多田と行天という、30半ばの男同士の関係が絶妙なんですね。友達、じゃないし、仕事仲間、というわけでもない。でも、つるんでる。

三浦 「こんな距離感の男同士はいない」「ファンタジーだ」というご意見もありますが。

柳瀬 いや、ファンタジーじゃなくて、むしろ、すごくリアルですよ。それは、この2人が高校時代を一緒に過ごしていたという設定になっているから。男って学生時代を過ぎると「友達」ができないんですよ。だから、多田と行天の関係って、「友達」ではないけれど、大人の男にとって、もうあとからじゃ絶対手に入らない、切ないうらやましい空気が流れている。

三浦 ああ、そういうのって男だけでなく、女同士でもあるかもしれませんね。

柳瀬 ありますか。

三浦 学生のころからお互いのことをそれなりに知ってて、学校などの同じ空間で、家族よりも長い時間を一緒に過ごしていた関係。お互いの、身体のムードみたいなものを知っている。それは、お互いにとって強みでもあり、弱みを握られているということでもあるんですよね。

柳瀬 ああ、三浦さんもそういう関係の人たちがいらっしゃるんですね。

三浦 私はそういうの、すごくありますね。女子校出身ということも関係しているのかもしれません。でも、こういう感覚を同性に対していだくのが、まったくピンとこない人もいるってわかってます。これって、いつもべたべた一緒にいるわけでもないし、かといって利害関係があるってわけでもない、ちょっと説明しづらい関係なんですよね。

柳瀬 違いますよね。

三浦 もっと個人的な……記憶を嗅ぎ合う感じ。くんくんって嗅ぐと、同じ場所の匂いがするなあ、みたいな。そんな感じなのかもしれない。

人は「純愛」を求めている

柳瀬 損得とか関係ない「バディ」な関係って、男も女もうらやましいんじゃないですかね。

三浦 うーん、損得がなく、また肉体関係もない、でも愛があるという意味で言えば、これって「純愛」なんですよね。

柳瀬 たしかに!

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記憶」を嗅ぎあう関係の描き方—三浦しをんインタビュー

三浦しをん

バツイチの便利屋と訳ありの居候、天才ランナーと彼の才能に賭ける相棒、辞書作りに没頭する朴念仁とお調子者の同僚……。三浦しをんさんの小説は、生き生きとしたキャラクター達が織りなす人間関係の魅力で、読者の心をつかんできました。三浦さんの友...もっと読む

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コメント

belwong #まほろ駅前狂騒曲 #三浦しをん 4年以上前 replyretweetfavorite

hideki_nara お早うございます♪ 『 まほろ駅前狂騒曲』【中編】「家族」から一番遠い存在を描きたかった… 直木賞作家 三浦しをんさんのインタビュー記事後半。。。 http://t.co/9RJ56HEwmw 4年以上前 replyretweetfavorite

garagevoice この、「お座敷犬」にキビシイ三浦さんのくだりもw 4年以上前 replyretweetfavorite

sawada_naoko 「お座敷犬」には厳しいしをん先生、好きです。➡︎ 4年以上前 replyretweetfavorite