まほろ駅前狂騒曲』【前編】自分がヤンキーなら、こうやってのし上がる。

『まほろ駅前狂騒曲』刊行を記念して、著者の三浦しをんさんにインタビューを行いました。バツイチの便利屋と訳ありの居候が東京郊外の町・まほろ市を舞台に活躍する「まほろ」シリーズ。まほろ市のモデルとなったのは、三浦さんが育った東京都町田市です。作品のなかのまほろ市に、実際の町田の人や風景はどう反映されているのでしょうか? そして、毎回話がまほろ市内で完結する理由とは。聞き手は柳瀬博一さんです。(構成:崎谷実穂)

町田だから「まほろ」が生まれた

柳瀬博一(以下、柳瀬) 新刊が出たということで、またもや、わたくしが、三浦しをんファンを代表してインタビューをさせていただきます(笑)。今回の『まほろ駅前狂騒曲』、ものすごくおもしろかったです!

まほろ駅前狂騒曲
まほろ駅前狂騒曲
『まほろ駅前多田便利軒』『まほろ駅前番外地』に続き、便利屋の多田啓介と相棒の行天春彦が架空の都市・まほろを舞台に活躍する「まほろ」シリーズの3作目。

三浦しをん(以下、三浦) ありがとうございます。そう言っていただけて、ほっとしました。

柳瀬 そもそも、郊外の都市・まほろを舞台にした物語を書こうと思ったきっかけは、なんだったのでしょうか?

三浦 郊外の町を描きたいと思ったのが、最初ですね。まほろ市というのは、東京の町田市がモデルです。私がずっと住んでいた町です。郊外の町は無個性だと言われがちなんですけど、実はそんなことは全然ない。町田はいつも駅前に人があふれていて、しかも職業不明な人が昼間からいっぱいいる(笑)。あの感じがすごくいいなと思っていたんです。東京郊外の、ちょっと変で、活気のある部分を書きたかったんですよね。

柳瀬 なるほど、郊外の町という舞台設定がまず最初にあったと。僕は以前から、物語や音楽などには、その場所じゃないと生まれ得ない作品があると思っていたんですが、「まほろ」はまさにそういう作品だと思います。もし三浦さんが、同じ郊外でも千葉の柏市に住んでたらまた別の話になっただろうし、うっかり木更津に住んでたら、「木更津キャッツアイ」みたいな作品が生まれていたかもしれない(笑)。

三浦 やっぱりこの作品に、町田の空気感、匂いみたいなものは影響していますよね。くんくん、なんだかちょっと変だけどいい匂い、みたいな。それは私にとって、肌に染み付いた馴染みの匂いであり、空気でした。

柳瀬 うん、うん。

三浦 「まほろ」を書くときは、話の展開に詰まると、だいたいいつも町田の駅前に行ってぶらぶらしたり、作中に出てくる「喫茶アポロン」のモデルになっているお店で一服したりしていたんです。そうしなかったら、書けなかったと思います。

もしも二人が『きのう何食べた?』のキャラと出会ったら

柳瀬 「まほろ」のおもしろさとしては、主人公が男二人のペアというのも大きいと思います。ほかに男二人のペアの話といえば、よしながふみさんが週刊モーニングに連載している漫画『きのう何食べた?』が有名ですよね。弁護士の筧史朗と美容師の矢吹賢二のゲイカップルの日常を、彼らの食生活にスポットを当てながら描いた作品です。三浦さん、あれ読まれてます?

三浦 もちろん。

柳瀬 あの2人と、「まほろ」の2人って仲良くなれるかなあって、気になって。

三浦 いやあ、どうでしょうね(笑)。ひょんなことから、多田と行天が筧さんちにお呼ばれしたとしても、手土産も持っていかずに行っちゃいそう。で、「これ、美味いなー!」とか言いながら筧さんが作った手料理ガツガツ食べていく。一応、多田は気を使ってお片づけもするんだけど、帰ったあと、筧さんと賢二が「なんか野蛮な人たちだったね……」とか言い合ってそう(笑)。

柳瀬 わはははは(笑)。

三浦 彼らの、お互いを気遣ってきちんと生活を営んでいる感じと、多田たちはまったく違うから。便利屋の事務所は汚いし、食事もカップラーメンとかレトルトばっかりだし、筧さんたちに「料理も掃除もしないなんて、ほんとに同じ人類なの!?」って言われちゃうかもしれませんね。

柳瀬 『きのう何食べた?』で描かれてる町は中央線の阿佐ヶ谷あたりがモデルなんでしたっけ? 町田がモデルのまほろに比べると、落ち着いた印象がありますよね。

三浦 そうそう、町田と中央線沿線って微妙にアクセスが悪いんですよ。それも、筧さんたちと多田たちの距離があまり縮まらない理由になるかも。

柳瀬 車でも電車でも、意外と行きにくいですよね、町田から中央線って。一回横浜線で八王子まで出てそこから中央線で、となるとかなり時間がかかる。

三浦 だからかな。町田市民は、荻窪、吉祥寺、阿佐ヶ谷あたりとの交流があまりないんですよ。なんか中央線沿いって、やたらシャレオツなカフェとかあるじゃないですか。町田と中央線カルチャーってそりが合わないんです。—と、私は勝手に思ってます。単なる嫉妬ですが(笑)。

柳瀬 ああ。それぞれのキャラクターにも場所が影響しているんですね。たしかに、中央線は文化系ですよね。一方の町田は、というと、ヤンキーの香りが。僕は、中央線の町と町田の違いって、「ヤンキー」がいるかどうかじゃないかと。

三浦 ああ、町田はヤンキー文化圏ですね。中央線にはあんまりヤンキーいなそうですもんね。立川まで行ったらいると思いますが。立川と町田は友達です!(笑) あと、川崎も!

柳瀬 立川も川崎も、暴走族の発生地帯だ(笑)。実は、最近批評界隈で活発化してるテーマのひとつがヤンキー論なんですが、僕はそれにちょっと違和感を持っているんです。地方や郊外の画一化されてベターッとしている空気が、ベターっとしたヤンキー化を進めたように語られてるんですけど、それは違うんじゃないかと思っていて。

三浦 そうなんですか、知りませんでした。ヤンキー、ぜんぜんベターッとしてなくて、個性的だし地域性ある気がしますよ。

柳瀬 宮藤官九郎さんも、ヤンキーって言葉は使わないけれど、ヤンキーの物語を描いている。「あまちゃん」もある意味で地方のヤンキーの話ですよね。でもクドカン作品の登場人物は画一的どころか超個性的。俗流ヤンキー論で語られている「ヤンキー」よりも、三浦さんやクドカンさんの作品に登場する、超個性的なヤンキーたちの方が実はリアルではないか、と思うんです。

三浦 たしかに、町田ってヤンキーっぽい人、本当に多いんですよね。そういう人たちを見ながら、私が町田でのし上がるとしたら、どういうふうにするかなと考えて、登場人物を設定しています。例えば星良一(注1)は一見ヤクザっぽいけどヤクザではなくて、周りに武闘派だけでなくインテリもいて、暴力団と一定の距離をおきながら、裏稼業に手を染めている。自分なら、そういうグレーゾーンを狙うなと思ったんですよ。
注1:まほろシリーズの登場人物の1人。まほろの裏社会で幅をきかせている。

柳瀬 三浦さん自身が町田でのし上がるとしたら、という前提なんですね(笑)。

三浦 もちろんそうですよ(笑)。自分が星みたいな立場だったら、ヤクザにはなりたくない、かといってチンピラみたいなヤンキーも嫌だ。どうすればいいか、と考えたんです。で、あのキャラができました。美人の高校生の彼女がいて、一方でヤクザともつながっていて、町田の裏稼業を仕切っていて、インテリでもヤンキーでもない……。そうしたら『まほろ』第一作目を出した後、こう言われたんです。「三浦さん、こんな星みたいなやつ、いないよ」って。そうかなあ、と思っていたら、そのあとに「関東連合」に代表される“半グレ”など、暴力団でもヤクザでもなくて、東京のけっこう中流家庭で私立高校に通っていて、でも、裏社会でのし上がっている若い人たちのニュースがどんどん出てきましたよね。

柳瀬 星は、半グレのはしりかっ!

三浦 いるじゃん、リアル星くん! だれだよ、いないっていったやつは! と、まあ思いましたです(笑)。うーむ、私、そっち稼業への才覚があったかも……。

柳瀬 町田の女王に成り上がった三浦さん、お会いしたかったっす。

三浦 おうよ。

柳瀬 そういえば、「まほろ」シリーズは必ずまほろ市内で話が始まり、まほろ市内で話が完結する。ほとんど外に出ていかない。第一作目で小田原方面に犬を届けにいったくらい。

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記憶」を嗅ぎあう関係の描き方—三浦しをんインタビュー

三浦しをん

バツイチの便利屋と訳ありの居候、天才ランナーと彼の才能に賭ける相棒、辞書作りに没頭する朴念仁とお調子者の同僚……。三浦しをんさんの小説は、生き生きとしたキャラクター達が織りなす人間関係の魅力で、読者の心をつかんできました。三浦さんの友...もっと読む

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maruma_ @hitsujimaru_111 そうなんすよ、ふふふ。https://t.co/A5ltPwGNfp 約1年前 replyretweetfavorite

dior88purple @home 自分用。彼らは分類上は池袋ヤンキーでいいんだろうな。みのりとの違いは https://t.co/m6g61fKibr 1年以上前 replyretweetfavorite

jomonsugi10000 「町田はヤンキー文化圏ですね。中央線にはあんまりヤンキーいなそうですもんね。立川まで行ったらいると思いますが。立川と町田は友達です!(笑)」三浦しをんさんのインタビューみてた。https://t.co/Rad8iSmNmL 3年以上前 replyretweetfavorite

mahorokeizai 町田の人や風景が作品にどのように反映されているのか、三浦しをんがインタビューに答えています。 全文読むには有料会員登録が必要です。 http://t.co/VouEOmIeNr 3年以上前 replyretweetfavorite