第35回】国境をなくすのは“言うは易く行うは難し”!?外国人労働者を巡る議論が炎上するドイツの実状

2014年より、EU内でのブルガリア人とルーマニア人の権利が拡張される。EUの各加盟国は、新しい加盟国の人間に対して、7年間は自国への移住や労働条件に一定の制限を課すことができるという規則がある。そして、多くの加盟国が2007年に加盟したブルガリアとルーマニアに対して、この規則を適用していた。


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2014年より、EU内でのブルガリア人とルーマニア人の権利が拡張される。EUの各加盟国は、新しい加盟国の人間に対して、7年間は自国への移住や労働条件に一定の制限を課すことができるという規則がある。そして、多くの加盟国が2007年に加盟したブルガリアとルーマニアに対して、この規則を適用していた。

つまり、去年まではこの2ヵ国の人々は、EU圏内のどこにでも移動はできたが、居住し、自由に就職することはまだ制限されていた。ドイツも、7年間、両国にその制限を掛けていた国の一つだ。

詐欺をする者は追い出される

しかし、その期限が去年で切れた。したがって今年から各国で、この2ヵ国からの労働者の増加が予想されている。労働者がどこの国へ流出するか? いくら隣りあわせでも、ブルガリア人が職のないギリシャに行くとは考えられないし、ルーマニア人がハンガリーへ行くこともないだろう。つまり、ドイツ、オーストリア、イギリスなど、比較的経済のまわっている国がターゲットとなるのは明らかだ。

1月の初め、CDU(キリスト教民主同盟)の姉妹党であるCSU(キリスト教社会同盟)が党会議を開いた。その中の議題の一つが、「詐欺をする者は追い出される」である。それが元で、今、ドイツでは、外国人労働者を巡っての議論が炎上している。

ドイツには、労働力が足りない職種が多々ある。一番顕著なのは医療の世界。ドイツの病院や老人ホームは、すでに東欧、あるいは、旧ユーゴ諸国の介護士なしには、にっちもさっちもいかない状況だ。食肉加工も、東欧からの労働者なしにはやっていけない職種の一つだ。彼らが低賃金で働いてくれているから、ドイツ人は飛び切り安い肉を食べることができる。

また、ドイツでは、質の良い熟練労働者も不足している。熟練労働者というのは、工場などの生産過程で必要な技能を持つ労働者だ。工場での生産の機能を直接的に握る、重要な人員である。彼ら無くしては、立派な施設があっても、潤沢な生産に繋がらない。

ところが、この熟練労働者がすでに長らく不足している。ある程度優秀なドイツ人は、"労働者"ではなく、"技術者"になりたがることも、不足の原因の一つだ。一方、熟練労働者としての職業訓練を受けるべく集まるドイツの若者たちは、質が悪くて使い物にならないことが多い。困り果てた産業界は、鵜の目鷹の目で、外国の質の良い熟練労働者を探している。

さらに足りない職種として、医師や技術者など、高度な資格を要する職種も挙げられる。だから、医師や歯科医、あるいは技工士などが、やはり東欧からやって来る。ドイツの方が給料は比べ物にならないほど良い。そのせいで、チェコやポーランドでは医師不足になり、ドイツでは外国人の医師がドイツ語をよく解さないという現象まで起こっている。

しかし、これらの外国人は、ドイツ社会が欲しているところでもあり、目下のところ、深刻な利害の対立はない。それどころか産業界は、もっともっと外国人に来てほしいと願っている。つまりこれからも、EUの発展に伴い、人間の自由な往来が増え、就業の国境はさらに消えていくものと思われる。

狙われる子供手当と生活保護費の不正受給

では、CSUの言っている「詐欺をする者」は誰のことかというと、これは、ドイツの社会福祉システムを目当てに流入する招かれざる外国人を指す。国境がなくなれば、就職の可能性など全くない、技能もなければ、字も読めないような外国人も入ってくる。ドイツの社会福祉システムが、これら一部の外国人に悪用されているのは、周知の事実なのだ。

CSUははっきり言わないが、この"一部の外国人"が、最近とみに増えているロマ(ジプシー)であることは間違いない。ロマは、ブルガリアとルーマニアにたくさんいて、それぞれの国で激しい差別を受けている。その彼らがこれからどんどん入ってくるのではないかと、CSUは危惧しているわけだ。

不正受給の狙い目は、子供手当と生活保護費だ。子供手当は、EU市民なら誰でも、ドイツに来たらすぐに受給できる。1人目、2人目の子供は、それぞれ184ユーロ(現在のレートで26,000円弱)、3人目は少し多くなり190ユーロ、4人目以降はさらに多くなり215ユーロ。少なくとも18歳まで貰える。つまり、子供を4人連れてくれば773ユーロ(11万円弱)がすぐに貰える。貧しい国の人にとっては垂涎の的、祖国の家族も養えてしまう金額だ。

一方、生活保護費は原則として、ドイツで3ヵ月働いたことのある人、ドイツで起業した人、あるいは、現在働いてはいるが賃金が安くて生活していけないという人にしか支払われない。そのため、職の無い人は事業を申請する。

清掃請負でも、アイロン掛けでも何でもよい。一人でも事業は申請できるし、その仕事が機能する可能性があるかどうかは問われない。必要なのは26ユーロと住所だけだそうだ。そして、登録した事業が十分な収入をもたらさない場合は、遅くとも3ヵ月後からは生活保護が貰えることになる。

ベルリンのノイケルンという地域は外国人がとりわけ多く、ドイツで最大の移民問題を抱えているが、そのノイケルンだけで、約1400件のブルガリアの事業者、1000件以上のルーマニアの事業者が登録されているという。

重篤な負担を被っているのは、このノイケルンのように、何らかの理由で外国人が極端に集中してしまう自治体で、ドイツ中で13ヵ所ほどあるらしい。そうなると、医療費はもとより、ソーシャルワーカー、通訳・翻訳の費用、語学研修や職業訓練の整備など、外国人受け入れに掛かる出費は天井知らずで、国の支援がない限りやっていけない。

さらに一番困っているのが、そういう外国人が住み着いた住宅のスラム化。生ごみや粗大ごみがどんどん外に積まれて、町の一角が最悪の状態になっている様子が、この頃よくテレビのニュースで報道される。ドイツの風景とは思えない悲惨さだ。

この不衛生で劣悪な環境を、自治体は手を拱いて見ているわけにはいかない。彼らを支援、指導しつつ、また一方では、普通の市民のための秩序と治安を取り戻さなくてはいけない。至難の業だ。ドイツ人の中で、これら"一部の外国人"に対する反発が出てくるのは、当然のことと言える。

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シュトゥットガルト通信

川口マーン惠美

シュトゥットガルト在住の筆者が、ドイツ、EUから見た日本、世界をテーマにお送りします。

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