カダフィ(リビア革命政権最高指導者)【第5回】「英雄」であり続けられなかった男

悪の親玉としてイメージされがちな「独裁者」たち。この連載では、世界の独裁者たちが、若い頃にどのような知識や価値観、思想などの「教養」を得て、それをどう国家支配に反映させたのかを読み解いてゆきます。1969年からの長期政権がついに崩壊したリビア。確固とした英雄観を持っていたカダフィも、古今東西の革命に見られる皮肉なパターンから逃れられませんでした。(『独裁者の教養』より)

2011年のカダフィ政権崩壊の遠因は、9・11テロとカダフィの路線転換にある。

彼は対テロ戦争に自国が巻き込まれるのを防ぐ目的もあって、2001年の9・11テロの際にアメリカに同情的な声明を出し、従来の外交方針を大転換させて親米姿勢を示した。2年後の9月には経済の対外開放と自由市場経済化を宣言。国連の経済制裁は完全に解除される。同年12月には核兵器保有の放棄を表明して、アメリカとの関係正常化への道を開いた。過去に自国から追放したはずの、国際石油メジャーによる投資も再開された。

だが、政治体制を変えずに経済だけを自由化したことで、国民の貧富の格差は急速に拡大した。経済の活発化にもかかわらず、公務員の月給が400LYD(リビア・ディナール、約3万円)ほどで据え置かれたことで、副業が常態化して綱紀の弛緩や汚職も横行した。ちょうど、鄧小平が提唱した改革開放政策の施行直後(1980年代)の中国とよく似た社会問題が、リビアでも発生しはじめた。

2011年2月、北東部の街・ベンガジで発生した小さなデモが、「リビア騒乱」の引き金になる。経済開放政策の施行後10年も経たずに社会矛盾が顕在化し、小さな集団抗議が大規模な反体制騒乱に拡大した様子は、やはり中国の天安門事件によく似ていた。

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独裁者の教養

安田峰俊

悪の親玉としてイメージされがちな「独裁者」たち。しかし、彼らは優れていたからこそ「独裁」を行えたはずです。そこで、この連載では、世界を代表する独裁者たちが、若い頃にどのような知識や価値観、思想などの「教養」を得て、それをどう国家支配に...もっと読む

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