いつか春の日のどっかの町で

老舗ギターメーカーに自分のためのギターを作ってもらえることになった大槻ケンヂさん。ギターの形や色や、いろいろな希望が浮かびますが、本当にほしいのは「ちょっとだけしゃべるギター」。さびしいときに相手をしてくれる相棒とあてのない弾き語りの旅に出たいのです。そして、いつかそのギターが、自分との思い出を次の持ち主に語るような、そんな日を夢見て、大槻さんは今日もギターを練習します。FOK46、番外編もいよいよ最終回です。

 ちょっとだけしゃべるギターがほしいのだ。

 他愛のない会話の相手をしてくれて、うなずいたり、アハハと笑ってくれたり、ちょっとだけそういうことのできる機能を持ったギターがあったらよいなぁ、と思う。 ライブの間は黙ってくれていていい。別にかけ合い漫才で受けようってわけではないのだ。それより、練習中であるとか、ライブの前であるとか、ライブが終わって一人楽屋に戻ってきたときとか、そんな時に「また間違えたね」「ああ、Dに行くとこをGで弾いちまった」「ある意味それ達人だよ」「アハハ」と二言三言、軽口を交わせるぐらいの間柄であったらいい。

 性別があるなら男がいい。旅先のライブのはねた飲み屋のカウンターで、「おい、ここのシェイカー振っている女のコ、かわいいなぁ」「マーティンならD45ってとこだね」「え?」「グラマラスだ、ボディーも何も」「あぁ、ちょっと手が出ねえな」なんて下世話な話もしやすいからだ。

 彼の“口”はヘッド部分にあるといいと思う。ソフトケースの上端からヘッドだけのぞかせて、少しだけしゃべるだけなら、人間とギターでボソボソ語り合っていても、そんなには目立たないから、怪しまれもせずけっこう長い旅にも行けるだろう。

 いつか……もう人生も半分以上過ぎてしまったけれど、いつかギターがそれなりに弾けるようになったら、ちょっとだけしゃべるギターを背負って、一人で、一人と一本で、僕は長い、遠くまで行く弾き語りの旅に出てみたいのだ。ギター以外は、あまり荷物は持っていかない。

「不便じゃないかい?」

 と、次の、どこか知らない町へ演奏に行く電車の中でちょっとだけしゃべるギターに問われたなら「ん? いや、それが」と答える。季節は春だといいなと思う。あまり寒くない頃がいい。

「ん?いや、それが、あんまりいるものって無かった」

「無かった? 忘れてきたんじゃないのかい?」

「そうかもしれない。どうだろうね」

「大切なものとかさ」

「ああ、大切なものか。大切だと思っていたものは、子供の頃に沢山あったけれどね。大人になるにつれ、だんだんそれが数を少なくしていく。で、気づくと、実はあまりなかったんだなと思うくらいになっている。なんかの映画のセリフさ」

「だからってギター一本が残るわけでもないだろ? 弾けもしないのにさ。」

「だよなあ。とりあえず相棒だけはほしかったんだよ。でも人はあんまり得意じゃないから」

「で、ギター? ならそんなもん、犬とか猫でもいいじゃないか。ぬいぐるみとかさ。ホラ、テッドみたいな、しゃべるぬいぐるみ」

「お前そこはテッドじゃなくてヌイグルマーって言えよ」

「ああ、そうか、でもなんでギターだったんだよ」

「ライブに立てるからね。ライブに立てば人がいる。拍手があって、歌があって、風景があって、ドラマがあって」

「人が不得意なんじゃないのかい? わかんないな。アンタ、やっぱりいるものが沢山あるんじゃないか?」

「え? ああ、そうだね。あるようでない。ないようである。でも全部結局は置いていくことになる」

「とか言ってるうちにすぐ到着さ」

「ああ、次はどこの町だったっけ」

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小説 FOK46—フォークオーケン46歳

大槻ケンヂ

30年以上音楽活動を続けてきた、ロックミュージシャンの大槻ケンヂ。楽器演奏と歌を歌うのを同時にできないという理由で、ボーカルに徹してきた彼が、2012年、ギターの弾き語りでのソロツアーを始めた。その名も『FOK46(フォークオーケン4...もっと読む

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