妖星伝(半村良)後編

半村良『妖星伝』評、後編です。1973年から8年間かけて書かれた本作は、その後長い間中断します。続編があることは明らかにされていたものの、10年以上期間が空いてしまったため、刊行を諦めていたファンも少なくありませんでした。再開したのは1993年。結果としてファンの間でも賛否が分かれるこの続編を、どう読めばいいのでしょうか。

第七巻をどう評価するのか

妖星伝〈7 魔道の巻〉
妖星伝〈7 魔道の巻〉

 『妖星伝』は、『小説CLUB』に連載開始した1973年の9月号から第六巻『人道の巻』の終章「DIMINUENDO」まで足かけ8年を要して書かれた後、長く中断した。とはいえ、すでに第五巻『天道の巻』までで一旦、鬼道衆を巡る物語は終結している。伝奇小説の終結である。他方、続く第六巻『人道の巻』は、その大半が栗山定十郎とお幾の人情話に当てられ、「DIMINUENDO」では栗山の死を持って終わる。女の物語の終結である。物語として見れば『妖星伝』は第五巻と第六巻を持って、二つの主題がそれぞれ終結したとみてよい。

 だがその後、『小説CLUB』1980年11月号に、第七巻の存在が発表される。作者・半村良は、当初から完結編を想定していたと言う。それは連載形式ではなく一挙公開となるとも予告された。ところがその第七巻『魔道の巻』が実際に出版されたのは、13年後の1993年のことであった。その間、もはや刊行されることはないと諦められていたこともあり、第七巻の出版には私を含め半村良作品の愛読者の誰もが驚嘆したものだった。

 待望された第七巻『魔道の巻』の評価は難しい。完結編とされながら、おそらくこれなくしても『妖星伝』は完結していたとも言えるからだ。では蛇足であったのかというと、半村自身が当初から構想されていた結末だったとしていることからも、また、それまでの巻に残された伏線を精査していっても、なるほどこの巻に必然性はある。ごく簡単に言うなら、進化への介在の目的が終わった残りかすの地球生命とは何か、という問題である。もちろん、これは小説上の修辞的な問題であって、そもそも地球生命の存在にはなんの理由もない。むしろ残りかすのような地球生命の現実をどう捉えるのか、ということが問題になる。人類はそのまま醜悪な形態を取って滅亡するのか。

 第七巻での結論は人類は滅亡するだろうということだ。人類周辺の生命もまた滅亡するとされている。悲観のようにも思えるが、生命自体が絶滅するわけではない。別の下等な生命体からいずれ別の知性生物にまで進化するだろうとしている。科学的にも不思議な話ではない。生命というのは生息可能な環境さえあれば、自然に発生する。現代科学においても、生命は物質から確率的に発生するということなっている。そして一度生まれ出た生命体は、環境に適合し、何十億年をかけて知性を獲得するにまで至るだろう。新しい地球生命は、私たちに連なる生命体のような、そのあり方自体を苦悩とするような現存の形態とは異なるかもしれない。

 第七巻が書かれたのは、この作品上の帰結よりも、半村自身がこの巻で自身の時間論を展開したかったためだろう。彼は『妖星伝』の第六巻までで、時間それ自体が終末へ向かうこと示したが、さらにその理論を別途小説として解き明かしたかった。ただし、そうした内容は大衆娯楽作品を越えているために、それまでの発表媒体に向かず、また作者自身の公開へのためらいもあったに違いない。最終的に第七巻の時間論が成功したかについては、評価しづらい。どちらかと言えば、成功しているとは言いがたい。第七巻はこの作品に必須だったとも言えないだろう。

 『妖星伝』はその多層性から、また問いが本質的でありながら答えが開かれているために、多様に読み取ることができる。大衆娯楽的な部分だけを読んでもよい。日本古代史から連なる民俗学的な雑学のファンタジーとしても読むことができる。それでも最終的には、お幾に暗示された女の物語として読むことは外せないだろう。地球生命への宇宙人の介在といった大仕掛けも、つまるところ、「地球の本来の生命=女」に対して「外在的な進化加速要素=男」という構図を持っているからだ。そもそも半村は、生命論や宇宙論的な疑問を支える「感情の結果」が、女を中心とする性の営みに発していると見ていた。

なぜ生まれてきたのか? なぜ生きているのか?

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