一故人

大瀧詠一—ポップス界の渡り鳥の「遺作」

歌手、音楽プロデューサーとして、日本の音楽史に大きなインパクトをもたらした大瀧詠一。昨年末の急逝は、多くの関係者やファンに衝撃を与えました。今回の「一故人」では、この多才な人物の活躍を振り返りながら論じていきます。



「渡り鳥」に自分を重ね合わせる

先ごろ亡くなったミュージシャンの大瀧詠一(2013年12月30日没、65歳)を追悼するラジオ番組で、放送作家・タレントの高田文夫がこんなエピソードを披露していた。

それは東京・池袋の映画館「文芸坐」が一時閉館を経て、2000年に「新文芸坐」としてリニューアルオープンし、高田が毎週末にトークイベントを開催したときのこと。毎回、ビートたけしや沢田研二など豪華ゲストを招いたそのイベントでは、大瀧詠一とのトークも「大瀧詠一の選ぶ小林旭映画」と題して予定されていた。

しかし当日、開演時間になっても大瀧はやって来ない。高田が何とか場をつなぐべく話し続けていると、いきなり客席の後ろ側のドアが開き、テンガロンハットにウエスタンブーツを履きギターを抱えた大瀧が現れた。映画「渡り鳥シリーズ」の小林旭そのままの格好だ。このサプライズに会場は大喝采であったという。

小林旭に少年時代より心酔していた大瀧は、後年、小林に「熱き心に」(1985年。作詞は阿久悠)を提供して大ヒットさせたほか、その往年の楽曲を収録したCDシリーズ『アキラ』を監修したり、作家の小林信彦とともに『小林旭読本』というムックを上梓するなど、再評価に余念がなかった。

また、大瀧は自身を小林演じる「渡り鳥」に重ね合わせることもあった。かつてロックバンド「はっぴいえんど」を組んでいた仲間である作詞家の松本隆との2000年の対談では、その当時を振り返って次のように語っている。

《「青春返せ!」とまでは言わないけど、どこかゲストだったんだよね。いまだにゲスト人生が続いていて、いつもふらりと渡り鳥。入学した学校を卒業してないし。事実、学校も転校ばかりだったし、大学も中退したから、最初からひとところに落ち着かないというスタンスが染みついてたんだよね》『松本隆対談集 KAZEMACHI CAFÈ』

「入学した学校」というのは、1968年に入学した早稲田大学のことだ。前年に大学受験に失敗し、郷里・岩手から上京した大瀧は、いったん就職するもすぐに勤めをやめ、一浪して大学に入った。考えてみれば、はっぴいえんどの大瀧以外のメンバーである細野晴臣・松本隆・鈴木茂はみな東京出身、細野と松本にいたっては山の手育ちで、私立の名門高校・大学(細野は立教、松本は中等部より慶應)に通っていた、いわばお坊ちゃんである。そのなかにあって、地方出身の大瀧の存在は異色ともとれる。

のちのはっぴいえんどのメンバーのうち大瀧が最初に知り合ったのは細野晴臣だった。2人の出会いは大瀧が大学に入ってまもなく、立教大学に通う友人の中田佳彦(作曲家の中田喜直の甥)を介してのことだったという。細野はこのときすでに松本隆らとエイプリル・フールというバンドを組んでいたが、大瀧は参加していない。そもそもこの時点で誰かとバンドを組もうとは一切考えてなかったといい、細野の家に毎週日曜ごとに通っていたのは、中田も交えてレコードを聴きながらポップスの勉強を一緒にするためだった。それにしては、レコードで聴いた曲からギターでコードを取り、最後に一曲ずつオリジナルを発表していたというから、ずいぶん本格的である。

そんなふうに行動をともにしていた細野と大瀧ながら、音楽の志向は微妙に違った。プレスリーやビートルズに大きな影響を受けた点は両者とも一緒だが、どちらかといえばロックよりもポップス志向だった大瀧は、アメリカのいわゆるヒッピー・ムーブメント以降の同時代のロックがよくわからなかった。これに対し、細野はこの時代にアメリカ西海岸から出てきたバッファロー・スプリングフィールド(メンバーにニール・ヤングなどがいた)というロックバンドに心酔していた。

バッファローズ・スプリングフィールドに初めはピンと来なかった大瀧だが、あるとき、そのレコードを繰り返し聴いていたところ、だんだんそのよさがわかってきた。数日後、そのことを細野に伝えると、ちょうど彼が結成しようとしていた新しいバンドに誘われる。

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この連載について

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一故人

近藤正高

ライターの近藤正高さんが、鬼籍に入られた方を取り上げ、その業績、人柄、そして知られざるエピソードなどを綴る連載です。故人の足跡を知る一助として、じっくりお読みいただければ幸いです。

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コメント

kawasemi ポップス界の渡り鳥の「伊作」かあ #違います https://t.co/shsauvv1OA 5年弱前 replyretweetfavorite

bodyhacker タダだ。読むべし。 5年弱前 replyretweetfavorite

kiq 完全主義過ぎたんかな“これならというものができたときに出そうと決めたわけ” 5年弱前 replyretweetfavorite

donkou ケイクスでを書くにあたり参照した『大滝詠一 Talks About Niagara』はアマゾンでは在庫切れで一時、中古で1万円近くまで上がっていたのだが、HMVのサイトで注文したらすんなり版元から取り寄せられたのだった。 5年弱前 replyretweetfavorite