コラプティオ』序章—二〇〇一年春【後編】

東日本大震災直後の、2011年7月に刊行された真山仁さんの小説『コラプティオ』が、文庫化されました。震災後の日本の政治を描いたこの作品は、3・11からもうすぐ3年となる今こそよむべき一冊です。今回cakesがお届けする物語の序章の舞台は、震災から遡ること10年前。カリスマ政治家の演説に耳を傾ける白石望と神林裕太。中学で同級生だった彼らですが、演説に心酔する白石とは裏腹に、神林が抱いていたのは、挑戦的な野心でした。

 長身の宮藤は演台に手を突き前のめりになって、何度も参加者に向かって頷いていた。万雷の拍手に応える彼を、望はじっと見つめていた。

 壇上から降りた宮藤を大勢の学生が取り囲んだが、望はその輪から距離を置いて様子を眺めていた。宮藤は一人ひとりの目を見て握手し、学生たちの声に耳を傾けた。包み込むような優しさは、離れていても感じ取れた。だが宮藤が人を惹きつけるのは、それだけが理由ではない気がする。宮藤のことをもっと知りたい。彼が与える好感や強さが本物なのかを見極めたい。

「よお、白石じゃないか」
 宮藤に近づいて挨拶しようとした時、背後から声を掛けられた。
「神林か……?」
 中学時代の同級生だった。高校から慶應に進学しただけあって、すっかり垢抜けている。連れらしい見るからに都会育ちの女子学生を見て、望自身の学生生活と大きな隔たりを感じた。

「文一だって」
「何とか入れてもらえたよ」
「中学の同級生の白石望。俺と違って真面目一徹で、学業、運動すべて抜群の天才だ」
 持ち上げられて顔を赤くしながら、望は女子学生に挨拶した。
「つまらぬガリ勉です」
「神林君にこんな真面目そうな友達がいたなんて、びっくりね。初めまして、 澤地遼子 さわちりょうこ といいます」

 祖父が政治家のくせに権力や政治が大嫌いと言っていた神林が、参加しているのが意外だった。

「君が、こんな会に来るなんて珍しいね」
「まあね、噂の宮藤隼人を見てみたかったんだ。おまえこそ、どうしたんだ。政治に関心あったのか?」
 神林がこれみよがしに彼女の背中に手を回した。
「高校の時から、宮藤さんにはお世話になっているから」
「そっか、奨学生か」
 人垣がなくなり、宮藤が退出しようとしていた。望は二人に断って、宮藤に近づいた。

「宮藤先生、奨学金でお世話になっています、白石望です」
「君が白石君か。会いたかったんだ。東大合格おめでとう! 君が財団に提出してくれた論文も素晴らしかった。優秀な後輩の応援ができて、僕も鼻が高いよ」
 間近で見る宮藤に、より強い親近感を覚えた。

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初回を読む
〝政治の季節〟がやってきた—『コラプティオ』文庫化によせて

真山仁

最新刊『グリード』が話題の小説家・真山仁さんが、東日本大震災直後の2011年7月に発表した『コラプティオ』が、文庫として発売されました。「震災後の日本を描く異色の政治ドラマ」と紹介される本作では、カリスマ的人気と実力を持つ宮藤隼人首相...もっと読む

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