パート5. 大人はわかっちゃくれない 折口歩乃果[13:40−]

自殺? ママもそういうこ とで悩んだりしたわね~。でも大人になったら なんとな~く解決しちゃったわよ。あんまり深刻にならないのが一番じゃないのかな――高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。頭脳派、お人好し、リーダー気取り、犯罪者まで入り乱れて彼と彼を導く殺人鬼(?)〈17〉に迫ります! 15人24時間の大晦日から始まる群像サスペンス長編! 読みはじめたら止まれない、ライトノベル史上〈もっとも長い一日〉をご堪能ください。(イラスト:箸井地図)

折口歩乃果[13:40−15:24]

 あのメールが届くまで、わたしも西さんたちも、かなり焦ってた。ただし別々の理由で。
 西さんたちのほうは、すごくストレートなイライラ感だった。頭のまわりに鈍色にびいろが混じってるのはその証拠だ。準くんのブログを妨害して──といいますか、勝手に妨害が始まっちゃったんでしかたなく準くんへのメッセージを残しておいただけ──さあて問題はそっから先。こちらからやれることが、なくなってしまったのだ。
 西さんは、ひたすら検索を続行。彼女曰く、
「個人情報の断片をかき集めるだけでも、案外にいろんなことが分かるものなのよ」
 だそうです。あたしは「へ~」と相づちをうって、彼女のまるでピアニストみたいな指の動きに感心するしかない。
 いっぽう在所くんは、仲間を増やそうと友達に電話しまくった。でもほとんど成果なし。おまけに左右田くんに止められる始末。
「なんで?」と在所くん。
「人数ばっかり多くても、統制がとれなくなるだけだって。それにさっきも言ったろ、学校で噂になったらどうすんだって」
 うーん、すでに噂になってるような気がするんですけど。わたしのとこにも例の遺書メールが転送されてきたくらいだし。
「とにかく。ここでこれ以上、時間と料金を費やしても、進展はなさそうね」と西さん、高速ブラインドタッチを終えてふりかえる。「いったん、ノブの部屋に移動したほうがいいんじゃないかしら」
「どうしましょ?」と、わたし。
「俺は料金のことならべつに──」
「というノブのお気持ちはありがたいけど。でも、きちんと割り勘にすべきだと思う。どう?」
 彼女の口調、ほんとに「主張」って言葉が似合ってる。まっすぐで、無駄がなくて。もしかしたら誤解されやすいタイプかも。
 けど、左右田くんが一言。
「いや。いざ移動って時の手間を考えると、駅のそばのほうがいいだろ」
 で、いろいろあって、けっきょくお店から動かないことになっちゃった。
「でも陶子さんのところにハードディスクを置いてあっても、無駄だわ」
「わかった。じゃあノブ持ってきて、『証拠物件』。ちょうどチャリも二台あるし。おれら、ここでブログ見張ってるから」
「しょーこぶっけん?」と、わたし。
「うん」と在所くん。「徳永の部屋から持ってきたやつがあってさ、地図とか本とか、ハードディスクとか」
「ほえー。あ、じゃあわたしも手伝いましょっか」
「それなら」と西さん最後の抵抗。「むしろ陶子さんもこっちへ……」
「いや。彼女こそ動かないほうがいい。体を大事にしないと。離れでみんなの連絡中継してもらうのがベストの配置だ」

 ──かくして、自転車にまたがって坂道をすすむ、わたしと在所くん。
 大きな家と生け垣の並んでる住宅街をしばらくゆくと、これでもかってくらい巨大なお屋敷が待ちかまえていた。
 昔とぜんぜん変わってない。小学校の校庭くらい広いお庭に《杉並区保護樹林》の看板が立ってて、そのむこうには立派な鳥居まであったりして。そもそも在所くんが使ってる『離れ』とやらだけで、今のわたしの家より大きいのよね。まいったなあ、もう。
 ところが。
「……あれ?」
「あらら」
 お留守番のはずの陶子さんは影もかたちもなく、そのかわり一階居間の床には折り鶴が百個くらいと、テーブルに二人分の湯飲みが出しっぱなし。
「なんだこりゃ」と在所くん。
「……マリー=セレスト号?」と、わたし。
「なにそれ。外国のアイドル?」
「いえ。なんでもないです」
 お手伝いさんに訊いたら、一時半くらいまでは間違いなく居たんだそうで。変なお客さん(ってたぶんミツハシさんのことだと思うんですけど)が訪ねてきて、トウコさんが応対して、でもそれから後は、
「さーあ。どうなすったんでしょうかねえ」
 うー、ずいぶんぞんざいな扱いだなあ。でも在所くんは別段怪しむ様子もなくって、
「ふーん」
 の一言。そういう家風なのかしらん。よくいえば自由放任、悪くいえば我関せず、みたいな。
「折り鶴って、徳永の無事を祈ってたのかなあ」
「単におヒマだったのでは」と、わたし。「それに御当人はどこに?」
「どっか買い物でも行ったのかも」
「でも連絡ぐらいしてくると思うんですけど」
「あ、そうか。すぐ帰ってくるつもりだった、とか」
「だったら、まだ帰ってきてないのはおかしいと思うんですけど」
「あ、そうか。じゃあ買い物先で手間どってんだな」
「その場合もやっぱりケータイで連絡してくると思うんですけど」
「あ、そうか」
「…………」
 むむー。あいかわらずだなあ在所くん。

 陶子さん消失のしらせに、明らかにいちばんビックリしてたのが西さん。
『あの人は、行先も言わずに消えちゃう人じゃないわ!』
「でも、現にいないですよ」
『ケータイは?』
「さっきメールして、返事待ち」と在所くん。
『かけてみるわ!』
 なのでわたしたち、しかたなく駅前のお店へ。まだ陶子さんとはコンタクトとれてなかった。
 持ってきた『証拠物件』のHDのファイルも、西さんがすぐさま「強引に解凍した」んだけど、役に立ちそうな情報はなかった。せいぜい、最近のジュンくんがトリビアにハマってたことが分かったくらいだ。
「きっと、どこかに何かあるわ」彼女はあきらめない。「そうでなければ、わざわざデータを圧縮しておくはずもないもの」
「そうなんですか?」
「そうよ。HDの余裕は十分にあるんだから。普通、こんな使い方はしない。何か理由があるのか、でなけりゃ、よっぽど神経質な人からパソコンの扱いを教わったか」
「ほえー」
 いっぽう在所くんたちは、文庫本に挟まれたメモをにらんで首をひねってる。
 わたしはといえば──できるだけ作業のお邪魔にならないように、ドリンクバーから飲み物を運んできたり、お昼ご飯のゴミをかたづけたり。うん、まずは仲間に信頼されなくっちゃね。みなさんの性格をきっちり把握して、それから一人づつ片づけてゆくという戦法。
 っていっても、べつに順番にぶっ殺してゆくわけじゃないのよ。それは横溝正史よこみぞせいしね。わたしは説得したいだけ。
 みなさん、ジュンくんを探して止めようとしてる。
 なんでって、自殺はいけないことだと思ってるから。
 でも、ちょっと話してみて分かってきたんだけど──みなさん、ジュンくんのことをあまりご存じない。その代わり、彼が死んじゃいけない理由だけはハッキリしてる。

 たとえば西さんは──
「命はね、じぶんだけのものじゃないからよ。それに、生きたくても生きられない人だっているんだから」
 ごもっともでございます。ちょっと話しただけでもすぐ分かる、彼女はとっても情熱的なタイプ。しかもその情熱を、きちんと論理で補強してる。うーん、こりゃ手強いぞ。こっちも理屈で攻めないと。
 在所くんは── 「だって、やっぱまずいだろ死ぬのは。家族が悲しむし。あと親戚とか、近所の人たちとか」
 とっても常識的。「近所の人が」云々のあたりは、ちょっと気のまわしすぎではと思うけど。
 左右田くんも理屈タイプで──
「命は大切にしなくちゃいけないんだよ。あたりまえだろ? 歴史的に見ても、世界宗教っていわれてるものは全部その黄金律ゴールデン・ルールをベースにしてんだよ。命を粗末に扱うな、ってね」
 でも西さんとくらべると、わざと理屈っぽく喋ろうとしてるみたい。たしか、お父さんの仕事の都合で海外で暮らしてたって聞いたけど……もしかしてその影響かしらん。でも、いきなり世界宗教とか言われてもなあ。わたし、べつにクリスチャンじゃないし。
 とりあえず説得できそうなのっていうと、まずは在所くんか。左右田くんは無理に押すと依怙地いこじになりそうな予感。彼の意見に賛成するふりして、ちょっとずつ曲げてくほうがよさそうですね。ちなみに他のメンバーの方々にも、メールでそれとなーく探ってみたところ、結果は──

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15×24(イチゴーニイヨン)link two 大人はわかっちゃくれない

新城カズマ

高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。彼を救うべく懸命に彼を探す捜索隊、否応なしに巻き込まれる者、別の思惑を抱くもの、そして殺人鬼まで……!? 15人24時間の大晦日の長編群像サスペンス、こっからが本番です! 読み...もっと読む

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