パート5. 大人はわかっちゃくれない 私市陶子[15:10−]

わたしはね、こうして立っているだけで分かってしまうの、貴女の殺されたお母さんのことだって――高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。頭脳派、お人好し、リーダー気取り、犯罪者まで入り乱れて彼と彼を導く殺人鬼(?)〈17〉に迫ります! 15人24時間の大晦日から始まる群像サスペンス長編! 読みはじめたら止まれない、ライトノベル史上〈もっとも長い一日〉をご堪能ください。(イラスト:箸井地図)

私市陶子[15:10−15:16]

 そのあとのことは、ほんとうにあまり憶えていないのです。
 ただ、どなたか御親切な方に小銭を借りましたことと、また別のお子さん連れの方に、靴を履いていないけれど大丈夫ですか、と心配されましたことだけは、ほのかに記憶に残っています。けれど、それだけなのです。
 小銭を戴いて、それからどうしたのでしょうか。私はおそらく電話をかけたのだと思います。先生にかけるつもりだったのが、どうしたことか番号が思い出せませんでした。なんとか思い出せたのは、聞いたことも見たこともない携帯番号でした。ええ、始まりが〇九〇でしたから間違いありません。私は何かを話したのだと思います、必死に、精一杯、知っていることを伝え、大切な伝言をしたのだと思います。
 と、その時です。
「──に近寄っては駄目よ」
 後ろから声をかけてきたのは、年配の御婦人でした。髪の毛は紫色で、鶴をあしらった落ち着いた色の和服に友禅ゆうぜんの帯を締め、そしてびっくりするくらい真っ白な足袋。
「いいこと、お嬢さん。水辺に近寄っては駄目よ。わたしの言ってること、おわかり? 今日だけ、いえ、明日の明け方まででいいのよ。けっして水の流れる近くに行っては駄目」
「あ……あの……?」
 耳元で、かちゃりと機械の音がして電話が切れました。その時、私はようやく思い出したのです。小銭を貸してくださったのは、この老婦人だったということを。彼女はその後も、私が公衆電話を探すところを、受話器にむかって訴えかけるところを、ずっと見守っていてくださったのです。ええ、そうに違いありません。私はふと、シンデレラの童話に出てくる魔法使いのおばあさんを連想しました。もしかしたら、この人にお願いすれば、南瓜かぼちゃの馬車さえ出していただけるかもしれません。
「あの、南瓜……」
「え? お嬢さん、だいじょうぶ? おわかり? お顔の色がよろしくないわよ」老婦人の細くて皺だらけの指が、私の肘を掴みました。びっくりするくらい強い力です。「あのね、わたしもうしばらくしたら出かけなくちゃいけないのよ、どうしても。だからね、ほんとは貴女も一緒につれていきたいくらいなんですけどね、そうはいかないのよ」
「あ、あの……」

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15×24(イチゴーニイヨン)link two 大人はわかっちゃくれない

新城カズマ

高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。彼を救うべく懸命に彼を探す捜索隊、否応なしに巻き込まれる者、別の思惑を抱くもの、そして殺人鬼まで……!? 15人24時間の大晦日の長編群像サスペンス、こっからが本番です! 読み...もっと読む

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