三橋翔太[15:01−15:04]
トウコがぶじ逃げた、だからおれわりと安心した、はじめはトウコ追いかけよおかと思ったけど、でもやめた。
こいつ、でっけいナイフもってるやつ、この「いんじゃんじょお」を先になんとかしねいと。
トウコを完全にぶじにするには、こいつここで叩きのめしとかねいと。
それにおれ、いろいろかんがえなきゃいけねいことがある、ありすぎだ、まずあのピンクの背広のやくざだ。
あいつ死んでなかった、おれ殺してなかった。
よかった。
まじよかった。
おれまだプラスかもしんねい。
でもそれとはべつにトウコまもって、それとトクナガつかまえて心を折る、その二つのことはやる、ぜっていやる。だっていっぺん決めたことだかんな、てめいで決めたこと後から変えんのはそりゃずるだ、後だしじゃんけんだ、だからそおゆうことはしねい。
それとあのケータイのことだ、それも考えねいとだめだ、でもおれピンクのやくざのケータイなんか見てねい、てゆうかそんなのさっきまでぜんぜん知らねかったし。
「ふぁぶり」のやろ、なんかすげえかんちがいしてやがる、くそ、大人なんて頭わりいのばっかだ。
「いんじゃんじょお」が「ふぁぶり」を後ろにかばって構える。おれも、テーブルのあいだのいちばん広いとこで構える。
「ふぁぶり」がちょっとずつ這ったまんま右の奥へ行こうとしてる、どうする、いや集中すんのは今は「じょお」だ、「ふぁぶり」は忘れろ。
そしたらなんかいい匂いした、「ふぁぶり」はもう見当たらねい、なんだこれ、食べのこしのステーキか。客ほとんどいなくなって、食いもんだけのこってら。なんかおもしれえな。とおめい人げんの服だけのこってるみていだ。
いて、まじで足のうら、いてえぞ。
だれだこんなとこにガラスまいたの。さっきのウェイトレスか、コップ落としやがった、ちくしょお。
やばい。「じょお」が接近する。じわじわ間合いつめる。でっけい登山ナイフだ。こっちは「ふぁぶり」の細っちいナイフだけだし、なんてんだこれバタフライナイフってのか、まあ一発で折れるなこりゃ。
くつはどこだ、あのカバンの中だ、まだ「がすぱある」が持ったまんまだ、出口の手前で鼻おさえてうずくまってやがる。
おれは下がる、間合いをとる。すると「じょお」が詰める。おれとカバンのあいだに「じょお」がいる。これじゃ外にも出れねえ。
にしても、どこのバカやろが、ピンクの背広のケータイもってっちまったんだろ?
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