パート5. 大人はわかっちゃくれない 私市陶子、徳永準[15:00−]

生きたいやつは、生かしてこちらに渡してくれろ。そのかわり、死にたいやつはそっちのもんじゃ。ここはなんでも流れ着く土地、ここで集めて、ここで仕分けよう――高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。頭脳派、お人好し、リーダー気取り、犯罪者まで入り乱れて彼と彼を導く殺人鬼(?)〈17〉に迫ります! 15人24時間の大晦日から始まる群像サスペンス長編! 読みはじめたら止まれない、ライトノベル史上〈もっとも長い一日〉をご堪能ください。(イラスト:箸井地図)

私市陶子[15:00−15:04]

 お店の中は、何もかもが混乱していました。
 派手なお化粧の女の人たちが大声で言い争っています。ファブリさんが床に倒れて転がります。ウェイトレスさんが悲鳴をあげ、他のお客の皆さんも出口へむかって駆け出してきます。ちょうどドアから出たばかりの私はその流れに押され、裸足のまま、あっというまに表の歩道へと転がり出ます。思わず膝をつきそうになるところを、
「……あなた! ほら、乗って!」
 誰かが助け起こしてくださいました。先ほど口論していた、派手なお化粧の女性です。まるで古代エジプトの王妃のようなアイシャドーなのです。
 先生、私は博物館を見学した日のことを憶い出してしまいました。
 そうです、お母様が私にむかって本当のお気持ちを口にした、あの日です。私はまだ初等科の二年生。陳列されているのは、初めてこの国にやって来た不思議な色とかたちの品物ばかり。何もかもが美しく、どれもこれもが新しく、そのため私はたいそう興奮していたのです。とうとう、『さわってはいけません』と注意書きされた古い壷に手を伸ばし、係の方に怒られてしまいました。それを見て、お母様はこう仰ったのです──やはり血は争えませんね、手を出してはいけないものを欲しがる、貴女あなたはほんとうにあの女そっくりです、と。
 今から想えば、あの時から、私はいつの日かお母様に反抗する運命にあったのだと思います。でも先生、どうか思い違いなさらないでください。先生と結ばれたことは、けっして、単に親の言いつけに背きたかったがためではありません。私は、本当に心から、先生のことを愛しているのですから。ええ、ほんとうに。
 いえ、そんな昔話はこの際どうでもいいのです。私は、無事に赤ちゃんを産んで育てなければいけないのですから。そのためにも、まずは徳永さんを見つけて止めなくては。彼を止めさえすれば、きっと赤ちゃんも無事に産まれて、何もかもうまくいって、お母様も過ちを認めて……いいえ、お母様はどうでもいいのですけれど。ともかく急がなくてはなりません。急ぐ? でも、どこへ? 中野の駅へ? ああ違います、それはもう済んだ話。目眩がします。爪先が痛みます。私、どうして靴も靴下も履いていないのでしょうか。それに、ここはどこなのでしょう。先生、やっぱり私は混乱しています。

 ──ふと我にかえりますと、私はバスの最後尾に座っていました。

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徳永準[15:00−15:04]

 食べながら、〈死にかけ〉さんはこんな話をした。
「……まあ話せばいろいろ長ごうなるけどなあ。いちおう決まりなもんで、おまえさんには話しとかんといかんわけじゃ。
 ここん土地は、もうずっと前から、いろんなものが流れ着くようになっとってな。
 そもそも川というんは、みーんなみんな、あっちの山からむこうの海へ流れ落ちる。そういうふうに世の中できとるなあ。なんもかんも溜まらんで──ずうっとずっと、入っては出る、来ては去る。悪いもんも、いいもんも、ずうっといつまでも居座るもんなんぞ、ない。
 そうはいうても、ときどき、なにかのはずみで水がよどんでな、なんやかやが流れ着いて、そのまま溜まったり居座ったりと、そういう厄介な土地ができることもある。
 そういう土地は、誰かがなんとかせんと、世の中まるごとどうかなってしまうでな。そんだもんで、わしみたいのがこうして杖もっとるわけじゃなあ。それが世の中の仕組みっちゅうやつじゃな。
 でな、そういう仕組みはみいんな、〈とくせん〉さんが仕切っとることでな。わしらとか、この子らもな、まあ言うてしまえば〈とくせん〉さんの部下っちゅうか、店子たなこみたいなもんなんじゃな。
 でな。
〈とくせん〉さんがこのへんを仕切る前は、〈かがち〉さん、いうのがおわっしゃった。ぜんぶで八人、みいんなでっかい大物ぞろいじゃ」
 ぼくは、黒い背広を着た八人のギャングを想像する。

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15×24(イチゴーニイヨン)link two 大人はわかっちゃくれない

新城カズマ

高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。彼を救うべく懸命に彼を探す捜索隊、否応なしに巻き込まれる者、別の思惑を抱くもの、そして殺人鬼まで……!? 15人24時間の大晦日の長編群像サスペンス、こっからが本番です! 読み...もっと読む

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