パート5. 大人はわかっちゃくれない 私市陶子[15:00]

私は唐突に思い出しました。そうです、その名前を私は知っていたのでした。『トム・ソーヤの冒険』に登場する、それはとても残忍な男の名前なのです――高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。頭脳派、お人好し、リーダー気取り、犯罪者まで入り乱れて彼と彼を導く殺人鬼(?)〈17〉に迫ります! 15人24時間の大晦日から始まる群像サスペンス長編! 読みはじめたら止まれない、ライトノベル史上〈もっとも長い一日〉をご堪能ください。(イラスト:箸井地図)

私市陶子[15:00]

 がくん、と大きな音がしました。
 初めは何がおきたのか、まったく分かりませんでした。
 ミツハシさんの太い腕が、私の視界の半ばを遮っています。ファブリさんのナイフを私から引き離した……いいえ、ほとんど引き剥がしたのです。
 そのまま、もういっぽうの拳がファブリさんの顔面を直撃します。
 直撃するはずでした。
 ですが、代わりに今度はミツハシさんがうめいて座席の背もたれに倒れ込みました。ファブリさんの靴が、テーブルの真ん中にある一本足を蹴って、テーブルの縁をミツハシさんのお腹に強く押しつけたのです!
 ミツハシさんの拳は、ファブリさんの鼻柱を砕く寸前で空振りをしたのです。なんということでしょう。ほんの少しだけ、ミツハシさんは遅かったのです!
「……なーるほど」
 部下の呻き声にかき消されるほどの小声で、ファブリさんがつぶやきます。少々前屈みです。
 なぜかと言いますと、ミツハシさんの右手は、ファブリさんのナイフを握りしめて放さないからです。私はもうファブリさんに肩を抱かれてはいません。二人の腕は綱引きの綱のようにピンと張って、私の上半身は弾かれてファブリさんの頑丈な胸にもたれかかる格好です。
 先ほどより安全と言えば安全ですが、たいそう恥ずかしいです。
 ですが、恥じらってばかりもいられません。テーブルに圧迫されているせいでしょうか、ミツハシさんの腕はぶるぶると震えています。ちなみに二人の部下も同じくテーブルに圧迫されてウンウンと唸っています。先生、この方はやっぱり酷い方です。
「これで互角の態勢だね、ミツハシ君」ファブリさんがおっしゃいました。「というか、膠着こうちゃく状態だ」
「…………」
「でも、このシチュエーションは長くは保たないよ。なぜだか、わかる?」

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15×24(イチゴーニイヨン)link two 大人はわかっちゃくれない

新城カズマ

高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。彼を救うべく懸命に彼を探す捜索隊、否応なしに巻き込まれる者、別の思惑を抱くもの、そして殺人鬼まで……!? 15人24時間の大晦日の長編群像サスペンス、こっからが本番です! 読み...もっと読む

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