渡部亜希穂[14:47−15:00]
なんでだよ。
ああ。
ペンが止まる。
あたしの手が止まる。
申込用紙の点線の上のあたしの名前が、あと一文字でピタリと止まる。
なんでだよ。
誰かが、あたしの心をダイベンしてる。あたし泣きそうになって、でも笑い出しそうにもなる。ダイベンって漢字が思いうかばなくって、ちょっと別のバッチいのをソーゾーしちゃったから。あはは。
だってどーせあたし、アホ子だもん。みんなからもそう言われてるし。担任も、
でも。
でもでもでもでも、どんなアホ子でも。痛いことは痛いんだよ。つらいことは、やっぱりつらいんだよ。
なんでだよ。声が、あたしの中でハンキョーする。なんでだよ。知らない人の声が。なんでだよ。たぶん一生顔をあわせない人の叫びが。
そうだよ。
あたしだって叫びたいんだ。
ずっとずっと、そう叫びたかったんだ。
なんで?
なんでなの?
なんで、あたしばっかりこんな目にあうの?
なんであたしには、ほんとの友だちがいないの?
なんでうちはビンボーなの? なんでうちは弟ばっか、ひいきされるの? なんでグループの人たち、あたしにジュース買いに行かせるの? なんであたしには、素敵な恋人がいないの? なんで毎日こんなに苦しくってたまんないの? なんでこんな思いまでして生きてなくちゃいけないの? なんであたし、とっとと死んじゃわないの? 徳永とかジューナナだけじゃなくて、なんであたしも自殺しちゃわないの? なんであたしが、生きなくちゃいけないの? なんで? なんで? なんで?……
──深呼吸してごらん。
そのとたん。
ありったけの「なんで」をブワーッて、頭んなかで言葉にしちゃったとたん。
ふわわっと、お腹んとこに変なパワーみたいのが、わいてきたの。
──だいじょうぶだから。