パート5. 大人はわかっちゃくれない 徳永準[14:29]私市陶子[14:28−]

だからおじさん訊いたでしょ、『後悔しないね?』って。ここまで携帯の秘密を話しちゃったんだもの、指の一本とか目玉の一個くらいは頂戴しとかないと、しめしがつかないよ――高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。頭脳派、お人好し、リーダー気取り、犯罪者まで入り乱れて彼と彼を導く殺人鬼(?)〈17〉に迫ります! 15人24時間の大晦日から始まる群像サスペンス長編、link oneに引き続きこっからが本番! 読みはじめたら止まれない、ライトノベル史上〈もっとも長い一日〉をご堪能ください。(イラスト:箸井地図)

徳永準[14:29]

 双子の女の子……それとも女の人だろうか……の声がする。
 伊隅もどこか近くにいる、でもぼくには見つけることができない
「ああ、そんなやったら寒いやろお。これ貸したげるからあ」
 赤いコートが、ふわりとぼくの体をつつむ。
「せやせや、自己紹介しとかんと。わたしらな、波美なみなぎ)いうんよ。おもろいやろ? まあ、どっちがどっちか、もう最近わからんようなってしもてんけどな」
 ひとつのコートにくるまった二つの同じ顔が、そろって喋る。
「初めはべつに問題ないわーそれも面白おもろいわーいうて、なんとなーくそのまんまにしててん。したら、ほんまにわからんようなってもうたんよ。うん、だいじょうぶ、もうじっきに着くからなあ。きみら名前は? ジュンくん、ケンジくん。へえ、ええ名前やねえ。うちら『銀河鉄道の夜』むっちゃ好きやってんよ。あー、でもどっちやーいうたらジュンくんのほうがカンパネルラいう雰囲気やなあ」
 闇色の雲がひろがっている。あっというまに森は暗くなる。そうだ、森だ。ぼくはあの森の中にいるんだ。いつのまに電車を降りたんだろう。
 胃の痛みも、吐き気も消えている。目眩だけがいつまでも残る。雲もぐるぐる、森もぐるぐる。
 曲がりくねった道、深い深い深い森。どこかで水の音がする。カラスがせわしく鳴いている。風には雨の気配がある。赤いコートがぐるぐる回る。
 ブナの木蔭に、溶けたクレヨンのような不思議な建物がある。屋上には、錆びた巨人の黒い影。
「ああ、気にせんでもええよ。だいじょうぶ、襲っていひんから。安全、安全。まあすくなくとも、うちらと一緒におる間は安全やわ。あはは」
 波美の声。それとも凪の声。
 暗い繁みの奥に、青い三角テントがあった。
「ほおら、もう着いたて。いま、じいさんに紹介したげるわ。──〈死にかけ〉のじいさん、いてるう? お客さんやでえ?──」

徳永準[14:28−]へ進む


私市陶子[14:28−14:41]

「ある人物が……まあここではピンクの背広君とでもしておこうか……そのミスタ・ピンク背広が、本日未明、吉祥寺駅南口の繁華街で腹部を刺されて、意識不明の重体となった」
 ファブリさんが語りはじめます。
 私たちが黙ったままでいたためか、「じゃあ説明しちゃうよ、おじさん。いいね? 後悔しないね?」と言うが早いか、お話が始まってしまったのです。

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15×24(イチゴーニイヨン)link two 大人はわかっちゃくれない

新城カズマ

高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。彼を救うべく懸命に彼を探す捜索隊、否応なしに巻き込まれる者、別の思惑を抱くもの、そして殺人鬼まで……!? 15人24時間の大晦日の長編群像サスペンス、こっからが本番です! 読み...もっと読む

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