笹浦耕[14:00]
あ、オレね。
ちなみに折口は、そんな変人てわけじゃないよ。念のため。どっちかっつーと、西のほうがブッとんでる性格だ。って、あくまでもこれはオレの個人的な見解ですが。
西満里衣[13:41−14:00]
ホノカ到着の前後には、いくつか進展があった。
一つ目は、あいつからの電話連絡。
「もしもし! 西……ええとつまり、満里衣です」
『あどーも。ササウラっす』
バトンタッチされたノブの携帯。低く澄んだ声、でもずいぶんと軽薄な口調。
「それで、警察のほうは動いてくれたんですか?」
『動いたは動いたけど。あんまし効果は期待できなさそうっすね』
トオルさんからの報告、ササウラ経由。藤堂という人物、警察に「頼りになる知り合い」がいて捜索協力をお願いしたらしい。
返答──「できるかぎりのことはするけれど、期待はしないでくれ」。
しかたがない。なにしろ今日は大晦日。警察にとって、もっとも多忙な二十四時間。対して徳永の現在位置は不明、心中相手も不詳。大捜査網を敷いたとしても楽なタスクじゃない。そもそもマーチの推理によれば、あの地図の六か所は徳永の推測。ほんとうの自殺予定地じゃない。
それに学校や親にも連絡しにくい。これは、わたしたちの現時点での方針。できるだけ穏便に事を済ませる。徳永が帰ってきやすいように。マーチとトオルさん、それからホノカもこの方針に強く賛成だ。
たしかに一理ある。大騒ぎにして、年明けに学校で話題になって、即日校舎から飛び下りられたら元も子もない。
でもそのおかげで、警察の「知り合い」氏には、できることはほとんどない。せいぜい、仲の良い同僚刑事や後輩の警官に、
──何か情報があったら、知らせてくれ。
──巡回の際に、気をつけていてくれ。
と頼むくらい。警察といっても、要はやる気と人間関係。巡回の手を抜くこともあれば、勤務の合間に融通を利かせる人もいる。そんな当たり前の世の中の仕組みを、わたしはあらためて学ばされる。
「まあ、人手が増えたのはいいことでしょうけど」
『あ、でもカラノは風邪ひいてダウンしたらしいすよ。それからアキホさんも、ちょっと外れるそうです。なんか用事思い出したからって』
「ええっ? だってそんな……それじゃけっきょく人数マイナスじゃない!!」
『ってオレに文句言われても』
「他の誰に言えっていうのよ!」わたしの口調、ついついきつくなる。「とにかく、何かしなくちゃ……そうだ、そっち渋谷に近いんでしょ。だったら地下鉄を探しに行くとか」
『あのね、東京は広いんだっつーの。あんた、地元どこ?』
「茨城」
『あー』
「なにが『あー』よ、ちょっと! 茨城バカにすんでないよ!」
目の前に火花。わたしの母さんが、どれだけ苦労してあの町でがんばってると思ってるの?町のみんなが、どれだけわたしたちを助けてくれてると思ってるの?
ササウラ、なんてむかつくやつ!
気がつくと、みんなおろおろしてる。ノブは手を半分さしのべたまま、電話を替わろうかどうしようかで一時停止モード。やばい。わたし、またやっちゃった?
「……えーもしもし」
気を取り直して会話再開。ササウラからの報告続き。徳永の財布が回収された。幸運にもアキホが拾っていたらしい。ただし、特に新しい発見は無し。
「分かりました、じゃそういうことで。また新情報あったら連絡ください」
むかつくササウラとの電話、おしまい。
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